相続の基礎知識㉟-遺産分割に関する見直しⅡ-
3 仮払い制度等の創設・要件明確化
(1)遺産分割前の預貯金債権の行使
最高裁大法廷平成28年12月19日決定(判時2333号68頁)は、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれると判示しました。そのため、遺産分割前には、相続人全員の同意がない限り、個々の相続人に対する払戻しは認められないこととなりました。そのため、生活費、葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要に対応することが困難となっていました。そこで共同相続人による単独での払戻しを行うことができるように、預貯金の仮払い制度が創設されました。
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始時の債権額の3分の1に当該共同相続人の法定相続分を乗じた額について、単独で権利行使できることになります。ただし、法務省令で金融機関ごとに、150万円が限度額とされています(改正相続法909の2)。
<単独で払戻しを受けることができる額>
相続開始時の預貯金債権の額 × 1/3 × (当該相続人の法定相続分)
(例)被相続人=父、相続人=兄、弟、遺産=預金600万円
・単独で払戻しを受けることができる額
=600万円 × 1/3 × 1/2
=100万円
(2)遺産分割前の預貯金債権の仮分割の仮処分
預貯金債権の仮分割の仮処分について、(1)と同様の趣旨から、以下のとおり、要件が緩和されました(家事事件手続法200条③)。
従前は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときに限り、申立てにより、預貯金債権の仮分割の仮処分が認められていました(家事事件手続法200条②)。
改正のより、家事事件手続法では、上記の場合の他、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときであって、他の共同相続人の利益を害するときにあたらない場合に、申立てにより、預貯金債権の仮分割の仮処分が認められました(家事事件手続法200条③)。
<続く>