相続の手引き㉚ 相続分の譲渡⑴

相続人が有する遺産全体に対する割合的相続分には財産的価値があるため、相続人の意思により譲渡することが可能であるところ、相続分の譲渡とは、共同相続人が遺産に属する積極消極財産の全体に対して有する包括的な割合的な持分を、他の法定相続人又は第三者に対して移転することをいいます。

相続分の譲渡は、相続分の全部ではなく、その一部の譲渡も可能であると考えられています。

⑴相続分の譲渡が可能な時期等

遺産分割前に限り可能であると解されており、第三者に対してのみならず法定相続人に対して譲渡することもできます。

しかし、法定相続人に対して相続分を譲渡した場合には、相続分取戻権を行使することはできません(民法905条1項)。

⑵相続分の全部の譲渡と相続放棄の違い

相続分の全部の譲渡は、相続分を失うという実質において相続放棄と類似しています。しかし、相続放棄は、家庭裁判所への相続放棄の申述(民法938条)が受理されることによって、はじめから相続人とならなかったものとみなされ相続人としての地位を失います(民法939条)が、相続分の全部譲渡によっては相続人としての地位を失うことはなく、遺産全体に対する割合的な持分及び遺産分割手続における当事者適格を失うにすぎません。

⑶相続分の譲渡の手続き

法律上特別の様式は必要とされていませんが、遺産分割調停ないし審判において、相続分の譲渡が行われた場合には、相続分譲渡人の真意を確認するため、相続分譲渡届出書とともに、譲渡人が実印で押印した相続分譲渡証書に、譲渡人の印鑑証明書を添付させて行わせるのが実務の運用です。

(続く)

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