会社内部紛争(類型III)

会社内部紛争には、役員報酬等を巡る紛争、取締役の地位・解任を巡る紛争、役員の責任を巡る紛争、経営権獲得を巡る紛争、株主権の帰属を巡る紛争など様々なものがありますが、対立する当事者によって整理すると、取締役(元取締役も含みます。)と会社との間の紛争(類型Ⅰ)、株主と会社(現経営陣)との間の紛争(類型Ⅱ)、株主と取締役との間の紛争(類型Ⅲ)、株主と株主との間の紛争(類型Ⅳ)の4類型に分けることができます。

なお、上記4類型により厳密に分類することが困難な複数の当事者が関係する類型の紛争もあり、所有と経営が一致しているいわゆる同族会社においては、株主が取締役を兼ねている場合も多く、あらゆる内部紛争の実態は、株主間の対立(類型Ⅳ)の様相を呈している場合も多いかと思料されますが、本項では便宜上、各紛争において特に利害関係の強い者同士を取り上げ、上記4類型に分類して会社内部紛争について説明します。

3.株主対取締役(類型Ⅲ)

株主対取締役の構図を取る紛争類型としては、解任の訴えと株主代表訴訟が挙げられます。

(1) 解任の訴え

取締役は、原則として株主総会普通決議によっていつでも解任することができます。

そして、50%を超える議決権を保有していない株主であったとしても、解任の訴えによって、取締役の解任を争うことができます。

解任の訴え」は、取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該取締役を解任する旨の議案が株主総会において否決された(種類株主の拒否権により決議が効力を生じない場合を含む。)とき、総株主の100分の3(これを下回る割合を定款で定めることもできます。)又は発行済株式の100分の3(これを下回る割合を定款で定めることもできます。)以上の株式を有する株主が、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもってその取締役の解任を請求することができます。

また、取締役の解任の訴えに先立って又はこれと共に、解任対象の取締役について職務執行を停止させる手続である「職務執行停止の仮処分」を申し立てることができ、併せて当該取締役に代わって取締役の職務を行う者を選任する「職務代行者選任の仮処分」を申し立てることもできます。

(2) 株主代表訴訟

株主代表訴訟」とは、個々の株主(公開会社においては原則として6ヶ月前から引き続き株式を有する株主)が、株式会社のために、株式会社に対する役員等の責任を追及する訴訟をいいます。

株主代表訴訟の提起を意図する株主は、株式会社に対し、原則として役員等の責任追及の訴えの「提訴請求」を行う必要があります。この際、株主は、会社に対し、提訴しない場合には提訴をしない理由を書面等により通知するよう請求することができます。

提訴請求は、書面等により行う必要があり、被告となるべき者、請求の趣旨及び請求を特定するのに必要な事実、提訴請求の受領権限を有する名宛人をそれぞれ記載しなければなりません。

提訴請求の受領権限を有する名宛人は、被告となるべき者が取締役(元取締役を含む。)である場合には、監査役設置会社では監査役(監査等委員会設置会社では監査等委員、指名等委員会設置会社では監査委員)となり、監査役非設置会社では代表取締役となると解されています。ただし、被告となるべき者が代表取締役自身である場合には、名宛人は代表取締役以外の取締役になると解されます。

提訴請求書を受領した株式会社が、60日以内に取締役に対し責任追及訴訟を提起しなかったときは、株主は、会社のために株主代表訴訟を提起することができます。

なお、株主代表訴訟の提起にあたっては、情報収集のために、類型Ⅱにおいて記載した各種情報収集手段が利用されることがあります。

上述したとおり、代表訴訟提起にあたっては提訴請求という手続が必要であって、有効な提訴請求がなされない場合に代表訴訟を提起したとしても、訴えが却下されてしまうおそれがあります。

そして、役員の負担する損害賠償債務も時効によって消滅することがありますので、仮に訴訟が却下されてしまうと、改めて手続を履践して代表訴訟を提起したとしても、時効が完成していて請求が棄却されてしまうことにもなりかねません。

このように提訴請求は重要な手続きですので、株主代表訴訟を提起しようと考えている株主としては、代表訴訟に明るい弁護士に依頼することをお勧めします。

また監査役や取締役としても、株主代表訴訟に適切に対応するためには、高度に専門的な知見と経験を要するため、提訴請求を受けた時点で弁護士に相談・依頼すべきといえます。

会社内部紛争(類型IV)

4.株主対株主(類型Ⅳ)

同族会社においては、前述してきた紛争の多くが類型Ⅳの様相を呈していることが多いといえますが、本項では、その中でも特に株主対株主の様相が色濃く表れる紛争類型として、株主権の帰属を巡る紛争、解散の訴え、特別支配株主による株式等売渡請求について説明します。

(1) 株主権の帰属を巡る紛争

実務上遭遇することの最も多い株主間での紛争類型は、株主権の帰属を巡る紛争、すなわち会社の株主が誰であるかについての争いです。

会社法上、取締役の選解任等の経営権の獲得や通常の会社運営に必要な基本的事項は原則として過半数の株式を保有する株主によって決めることができ、株主権の帰属が経営権の帰属にも繋がりかねませんので、株主権の帰属については、株主間で激しく争われる傾向にあります。

株主権の帰属が争われる例としては、株式譲渡の事実やその効力について争いがある場合の譲渡人と譲受人間の紛争がありますが、多くの場合は名義株の帰属について名義借人と名義貸人間で争われる場面です。

「名義株」とは、一般的に、出資者が自己の名義ではなく他人名義としていた株式をいうとされています。

中小企業においては、平成2年改正前商法において、株式会社の設立には7名以上の発起人が必要とされていたため、その員数を満たすために、現実の引受人以外の者の承諾を得て、発起人としての名義を借り受けることが多くなされていたため、社歴の長い会社ほど名義株の問題を抱えていることが多いといえます。また、創業者が死去し、相続が発生した際に名義株問題が顕在化することもあります。

このような場合、判例は名義人ではなく実質上の引受人(出資した者)が株主となると解しています(最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448号等)。

裁判例では、名義株主か否かは、

  • ①株式取得資金の拠出者
  • ②名義貸与者と名義借用者との関係及びその間の合意内容
  • ③株式取得(名義変更)の目的
  • ④取得後の利益配当金や新株等の帰属状況
  • ⑤名義貸与者及び名義借用者と会社との関係
  • ⑥名義借りの理由の合理性
  • ⑦株主総会における議決権の取扱い及び行使の状況
を考慮し、判断するものとされています。

名義株の帰属について争いが生じるおそれがある場合は、これを見越した対策を講じることで、後に有利に立ち回ることができる場合もありますので、名義株の帰属の争いにつき具体的事案に即して適切な判断・対応をすることのできる弁護士に依頼することをお勧めします

(2) 解散の訴え

50%ずつの議決権を有する二派の対立により取締役会や株主総会の開催すらままならなくなり、会社の意思決定ができなくなったような、いわゆるデッドロックの場面において、最終手段として、一方の株主から会社を被告として解散の訴えが提起されることがあります。

解散の訴え」は、総株主の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めることもできます。)以上の議決権を有する株主又は自己株式を除く発行済株式の10分の1(これを下回る割合を定款で定めることもできます。)以上の数の株式を有する株主が提起することができる訴えで、判決によって株式会社の解散を命じるものです。

解散の訴えが認容されるためには、①解散という選択をすることにつき「やむを得ない事由」があり、かつ②ⅰ)株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるか(1号事由)、あるいはⅱ)株式会社の財産の管理又は処分が著しく失当で、当該株式会社の存立を危うくするといえること(2号事由)が必要です。

①「やむを得ない事由」には、株主間の不和等を原因として、業務継続が困難な状態に陥っており、解散が唯一最後の手段である場合や、多数派株主の不公正かつ利己的な業務執行により、少数派株主がいわれのない不利益を被っており、このような状態を打破する方法として、解散以外に公正かつ相当な手段がない場合の2つがあると解されています。

②ⅰ)1号事由が認められるためには、取締役間で分裂が生じて業務に停滞を生じているといっただけでは足りず、たとえば株主も取締役も等分に対立していて、取締役の解任・選任等を行ってみてもその停滞を打開し得ないような状態にあることを要し、かつ、かかる膠着状態が、会社に回復できない損害を被らせるおそれがあることを要するとし、会社が営利法人として存在することがほとんど不可能であるような状態にならなければならないと解されています。

また②ⅱ)2号事由が認められるためには、取締役による会社財産の不当な流用・処分などがあって、取締役が多数派株主を背景としているなど、他の方法では誤った経営ないし非行を是正することが期待できない場合であること要し、かつ、かかる誤った経営ないし非行が会社を破綻せしめるほどのものであることを要すると解されています。

解散の訴えを認容した裁判例の大多数は、上述したデッドロックの状態であって、中小規模の同族会社においてデッドロックの状態に至った場合には、裁判所は概ね解散請求を認容する傾向にあります。

一度解散の訴えが認容されてしまうと、継続企業価値を有する会社としては大きな損失となりますので、会社の存続を望む株主としては、デッドロックの状態にならないための予防策を事前に講じておく必要があります。

(3) 特別支配株主による株式等売渡請求を巡る紛争

特別支配株主による株式等売渡請求」とは、平成26年会社法改正により導入されたスクイーズ・アウトの一手法で、対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する株主(特別支配株主)が、対象会社の取締役会での承認決議等の一定の手続きを経ることにより、少数株主の有する株式等(株式、新株予約権、新株予約権付社債)の全てを、少数株主の承諾なく、金銭を対価として取得することができる制度をいいます。

他のスクイーズ・アウトの手法とは異なり株主総会の決議を経る必要がなく、売渡株主の株式等が、直接特別支配株主に移転する点で特徴を有しています。手続きの詳細については「スクイーズ・アウト」をご確認下さい。

紛争類型としては、売渡請求の効力自体を争う場合として、差止請求、売買価格決定の申立、無効の訴えがあり、②売渡請求の効力自体は認めつつ売渡価額について争う売買価格決定の申立てがあります。

いずれの手続きにも厳格な期間制限が設けられており、特に差止請求、売買価格決定申立は、20日間という極めて短期間で行使するか否かの判断をしなければなりませんので、通知を受け取った少数株主は、直ぐに弁護士に相談することが肝要です。また、特別支配株主や対象会社としても、対価の相当性、対価の交付見込み等についての判断を含め、瑕疵なく各手続きを履践する必要がありますので、実行するにあたっては必ず弁護士に確認を求める必要があります。

ア 売渡株式等の取得をやめることの請求

売渡株主は、株式売渡請求が法令に違反する場合、対象会社が売渡株主に対する通知又は事前開示手続を行う義務に違反した場合、売渡株式等の売買価格等が著しく不当である場合には、売渡株式等の全部の取得をやめることを請求することができます。

差止請求権は、売渡請求の効力が生じる前に権利を行使しなければなりません。

しかし、売渡株主が特別支配株主による株式等の売渡請求が行われたことを知る端緒は、通常、対象会社から受け取る通知ですが、当該通知は、取得日(効力発生日)の20日前までに行えば良いこととされておりますので、差止請求訴訟を提起して、この確定をまっていては効力が生じてしまい、実行性がありません。

そこで、通常は、差止請求仮処分が申立てられ、当該保全手続の中で差止請求の可否が争われることとなります。

このように、20日間という極めて短期の間に差止請求権を行使するか否かを判断しなければなりませんので、売渡請求に係る通知を受け取った株主は、直ちに専門家に相談する必要が高いといえます。

イ 売渡株式等の取得無効の訴え

株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部取得の無効は、取得日から6ヶ月以内(対象会社が非公開会社の場合には1年以内)に、売渡株式等の取得無効の訴えを提起して争うことができます。

無効事由は、対象会社の取締役会決議の瑕疵、売渡株主等に対する通知・公告の瑕疵、事前開示書類の瑕疵、差止仮処分命令に対する違反、対価の額が著しく不当等があたりうると解されています。

ウ 売渡株式等の売買価格決定申立

特別支配株主と対象会社の間で決定、承認された対価に不満を持つ売渡株主は、取得日の20日前から取得日の前日までに、裁判所に対し、その有する株式等の売買価格決定を申し立てることができます。

特別支配株主への売渡株式等の売買価格がどのように定められるかは、未だ裁判例が集積していないため明確ではありませんが、強制的に株式を奪われる点において、全部取得条項付種類株式を利用したキャッシュアウト事例における価格決定申立事件に類似します。

そして、同事件において、最高裁は、①MBOが行われなかったならば株主が享受し得る価値(ナカリセバ価格)と、②MBOの実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分(増加価値分配価格)とを合算して算定するとされています(最決平成21年5月29日)(レックス事件)ので、売渡株式等の売買価格決定申立事件においても、同様の手法により評価がなされる場合が多いと予想されます。

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