本ホームページのメインテーマは、争族、すなわち相続を巡る肉親の争いを回避することです。

親にとって、自らの死後とはいえ、いずれも大切な息子や娘達が、遺産（相続財産）を巡って相争うのは、本当に悲しむべきことです。親であれば、誰もが避けたいと思っているにもかかわらず、実際には、相続を巡って争いとなってしまうことがしばしばです。しかも、相続争いは年々増加しているように思います。

ところが、親世代の方は往々にして争族対策をすることにあまり積極的ではありません。

その理由の一つとしては、自分の死を必然的に連想させる相続から目を背けたいという人としての自然な感情があると思います。

しかし、現実に目を背けるべきとは思えません。将来、子供達が相争い、不幸になってしまうかもしれないのに、自らが直接目にすることがないからといって、何も対策をとらずに、そのままの状況にしておくべきではありません。

また、親世代の方が争族対策を行わない理由として良くお話になるのが、「うちは相続争いをするほど財産がないから大丈夫。」というご意見です。

しかし、このご意見に対して、経験上私たちは肯くことができません。それほど多額の財産を残された場合でなくても、争族に発展したケースをいくらでも目の当たりにしてきたからです。争族状態になってしまうか否かは相続財産の多寡というよりは、各相続人の考え方やそのおかれた環境が大きく影響すると思います。ですから、相続財産の多寡に関係なく、争族対策は行うべきです。

他に、兄弟姉妹の仲が良いので争族には発展しないと考えている方もいらっしゃいます。

しかし、この考え方も一概には正しいとは言えません。生前は仲が良かった兄弟姉妹であっても、親が亡くなり、実際に相続を巡り経済的に利害が対立すると、配偶者の影響もあってか、その関係は劇的に悪化してしまう例を度々目にします。そして、血が繋がる近しい関係であるからこそ、逆に他人に対してよりも、一層激しく感情が表れてしまうのです。ですから、兄弟姉妹の仲が良ければ良いほど、その関係を壊さないために、争族対策を実施するべきだと思います。

以上のとおり、私はすべからく争族対策はとられるべきと考えていますが、特に以下の場合には争族に発展するケースが多く、該当する方には強くお勧めしたいと考えています。

• ①会社を経営されている場合
• ②地主でいらっしゃる場合
• ③お子様と同居されている場合
• ④介護などでお子様を頼られている場合
• ⑤経済的に恵まれていないお子様がいらっしゃる場合

①については、円滑な事業承継のためには後継者への自社株式や事業用資産の集中が不可欠であり、相続人間で不平等が生じやすいため、争族に発展する可能性が高く、かつ、争族が会社経営に与える打撃が大きいことが理由です。特に自社株式や事業用資産が主な財産という方は気をつけて頂きたいと思います。

②については、いわゆる長男相続の意識が親にも長男にも強い一方、最近の権利意識の高まりで、その他の相続人が法定相続分またはそれに近い相続を求める場合があるからです。

③や④については、相続人が互いに不公平と感じることが多いのが理由です。例えば親と同居していた相続人は「おれは親の面倒を見ていた」と自分がより多くの財産を相続するべきと考えるのに対し、他方同居していなかった相続人は同居していた相続人が住居費や生活費の面で今まで得をしてきたと考える場合があるからです。

⑤については、容易にお分かり頂けるでしょうが、やはり経済的に困窮している相続人は、より多くの財産を相続したいと考え、他の相続人と対立することが多いからです。

それでは、具体的な争族対策ですが、理想を言えば親が生前に相続人全員と話し合い、その結果を遺言という形に残すことでしょう。言葉で表すとごく簡単なことですが、現実には、心理的な壁などがあって困難であることは否定しません。しかし、親が生きている間は、子も親の考えを尊重するものです。勇気を出して率直に話し合っていただければ、それが最善の争族対策であることは間違いありません。

もっとも、諸事情から話し合いができない場合も少なくないでしょう。この場合であっても、必ず遺言として親の想いを残して頂きたいと考えております。適切な遺言を残せば、ほぼ争族対策は完了したと言えるからです。

一方、事業承継の問題は、それほど単純ではありません。各社のおかれている状況によって、必要となる具体的な事業承継対策は千差万別です。

そもそも後継者がいるのかという点が最初に問題となり、残念ながら後継者がいないという場合には、M&Aで売却できる会社なのか、それとも廃業せざるを得ないのかという点が次に問題となってきます。

幸いにも後継者がいる場合であっても、多くの課題が出てきます。後継者教育、株式の承継、事業用資産の承継、税金、遺留分など多くの課題をクリアする必要があります。これらの課題の解決手法としては、遺言の作成、株式集約、スクイーズ・アウト、種類株式発行、属人的定め、組織再編、信託、従業員持株会の組成、一般社団法人の利用など様々な手法が唱えられています。どの手法を選択するのが適切なのかは、当該企業及びオーナー一族それぞれの状況によって異なってきます。

弁護士である私たちは、支配株主対少数株主、大株主対経営陣といった会社内紛事例を多く経験してきました。その経験から感じることは、多くの経営者の方が会社支配の源泉である株式の重要性を十分に認識していないということです。最悪のケースでは、自らが設立し、育ててきた会社を奪われた例もあります。その観点からは、株式の集約と承継が事業承継にあたって最も重視すべきであることは間違いありません。株式の集約の障碍である税金の問題も、事業承継税制の特例により回避できるケースが多いでしょう。

もう一つ事業承継対策で気になる点は、相談した専門家の助言によって、不必要な事業承継対策がとられているケースを散見することです。その理由としては、その専門家が有するノウハウの偏り、酷いケースでは専門家自身の経営方針の優先があるように思います。

繰り返しになりますが、事業承継対策は、その会社のおかれた状況に鑑みて、最適な手法を、いわばオーダーメイドすることが必要なのです。

事業承継に向けてそもそも何をするべきか分からない方、銀行等から提案を受けてはいるが実行するべきか悩んでいらっしゃる方、漠然とした不安はあるがそのまま放置されている方は、是非一度ご相談ください。

近時は、事業承継をＭ＆Ａで解決する例が急増しています。その理由としては、Ｍ＆Ａという手法が社会的に認知されてきたこと、中小企業のＭ＆Ａを仲介する会社が増加したことにあると思います。

技術や雇用を守るという観点、Ｍ＆Ａによるシナジーの実現という観点からは、Ｍ＆Ａの増加は社会経済的に望ましいことであり、今後も事業承継の選択肢として大いに利用されるべきと考えます。

もっとも、中小企業のＭ＆Ａでは売り手側が弁護士を依頼する例が少ない点が問題と考えています。規模・Ｍ＆Ａの経験で売り手を上回ることが多い買い手側には弁護士が存在する例が多いにもかかわらず、売り手側に弁護士がいないのは不均衡です。これでは対等な交渉は困難です。

また、中小企業庁が中小企業のМ＆Ａの促進にあたっての問題点と指摘している、М＆Ａ仲介会社に委託した際の費用の問題、買い手側・売り手側双方から受託する利益相反の問題があります。売り手側はМ＆Ａの経験がないことが多いため、何が適正なのか判別することができません。

会社の売却を検討されている経営者の方は、会社の売却という自らの経営者としての最終局面で悔いを残さないために、職責上依頼者の利益を守る弁護士に依頼されるべきです。

一方、会社の買収を検討されている場合も弁護士の関与は不可欠です。

会社は不動産などと異なり、外部の者にとってその実際の価値は見えにくいものです。失敗例も珍しいものではありません。

リスクの回避、低減のためには、デューデリジェンスによるリスクの洗い出しが不可欠であり、その結果を受けての買収スキームの策定、契約締結交渉などが重要となります。

Ｍ＆Ａは会社の成長にとって魅力的な手法です。それゆえ、前のめりになる経営者の方もいらっしゃいます。会社の真の利益のために、客観的な視点からアドバイスすることができ、時にはブレーキをかけることができる存在が必要です。