新・相続の基礎知識⑪―遺言の変更と撤回―

―目次―

第1 遺言の変更 

第2 遺言の撤回

第3 遺言を撤回できる権利の放棄の可否

▎▎第1 遺言の変更

 作成した自筆証書遺言の変更については、作成と同様に厳格な方式が定められています。すなわち、自筆証書(添付する財産目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じないとされています(民法968③)。また、財産目録の変更の方法として、新たな財産目録を追加する方法も認められると考えられています(法制審議会民法(相続関係部会)第23回提出「財産の特定に必要な事項について自書によらない加除訂正を認める場合の例」)。 

 ただ、新たな財産目録を添付する場合であっても、訂正前の財産目録を残しておく必要があることに注意を要します。部会資料では、訂正前の目録に大きく×印をつけて、×印の横に押印したうえで、訂正前の財産目録を残しておく方法が想定されています。  

 また、遺言本文においても、訂正前の財産目録についての記載を取り消す必要がありますし、新たな目録があることについても記載しなければなりません。このように、新たな目録の追加といってもその方式には注意点が多いのです。

 これに加えて、新たな財産目録が加えられた日と遺言本文に記載された日付が大きく異なる場合には遺言能力について争いが生じる可能性があります(法制審議会民法(相続関係部会)第22回会議議事録22頁)。

 以上の点から、変更ミスを避けるために、第2で解説する方法により遺言を撤回し、遺言書自体を新たに作成することをお勧めします。

 なお、秘密証書遺言の変更についても、自筆証書遺言の規定が準用されています(民970②、968③)ので、自筆証書遺言と同様の方法で変更することができます。一方で、公正証書遺言の場合、遺言の原本は公証役場にあるため、作成者が保管している遺言を変更しても、変更の効力は生じません。

▎▎第2 遺言の撤回

 では、遺言を撤回するために、具体的にはどのような行為を行わなければならないのでしょうか。

 まず遺言の撤回は、新しい遺言を行うことによって行うのが原則となっています(民法1022)。もっとも、遺言の撤回は、前の遺言の方式と同じ方式で行う必要はありません。自筆証書遺言を撤回するために、新たに公正証書遺言を行うことも可能です。

 次に、遺言を撤回するために行う新しい遺言では、前の遺言を撤回することを明示する必要はありません。前の遺言と両立しない遺言を後に行えば、両立しない範囲で遺言は撤回されたものとして取り扱われることになります(民法1023①)。

 一方、遺言と両立しない処分を行った場合(民法1023②)、遺言書を破棄した場合(民法1024前段)、及び遺贈の対象となっている目的物を破棄した場合(民法1024後段)についても、遺言は撤回されたものとして取り扱われることになります。

 例えば、夫が、遺言でA建物を妻に遺贈すると定めていたとします。この場合、遺贈の対象とされていたA建物を、夫が友人に売却した場合には、遺言と両立しない処分を行ったものとして、A建物に関する遺言を撤回したものと取り扱われることになります(民1023②)。また、夫がA建物を取り壊した場合も、遺贈の対象となっている目的物を破棄したものとして、A建物に関する遺言を撤回したものと取り扱われることになります(民1024後段)。

▎▎第3 遺言を撤回できる権利の放棄の可否

上で述べたように、遺言はいつでも自由に撤回することができます。

では、子供が、親が遺言を残す際に、遺言を撤回できる権利も一緒に放棄させていた場合、親はもう遺言を撤回することができなくなってしまうのでしょうか。民法は、このような事態が生じてしまうことも念頭において、遺言を撤回できる権利は、放棄できないことを定めています(民法1026)。

 したがって、仮に親が遺言を撤回できる権利を放棄させたとしても、それは無効となりますので、この場合も親は、自由に遺言を撤回することができます。

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