新・相続の基礎知識⑲―配偶者居住権Ⅱ―
―目次― 第1 配偶者の居住権を保護するための方策 2. 配偶者居住権(続きから) (7)居住建物の修繕等 (8)居住建物の費用の負担 (9)居住建物の返還等 第2 配偶者短期居住権(民法1037条ないし1041条) 1. 配偶者短期居住権 2. 配偶者による使用 3. 居住建物の返還等 4. 使用貸借等の規定の準用 |
<相続の基礎知識―配偶者居住権Ⅰ―の続き>
(7)居住建物の修繕等
配偶者は居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます(民法1033①)。配偶者が相当な期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物所有者は修繕をすることができます(同②)。居住建物が修繕を要するとき、又は居住建物について権利を主張するものがあるときは、配偶者は居住建物所有者に対し遅滞なくその旨通知する必要があります(同③)。もっとも、居住建物所有者が既にこれらの事情を知っているときは、通知する必要はありません(同③ただし書)。
(8)居住建物の費用の負担
配偶者は居住建物の通常の必要費を負担します(民法1034①)。通常の必要費とは、固定資産税や通常の修繕費のことをいいます。通常の必要費以外の費用については、償還請求をすることができます(民法583②、1034②)。
損害賠償及び費用償還請求については、期間が制限されており、居住建物所有者が返還を受けた時から1年以内に請求する必要があります(民法600、1036)。
(9)居住建物の返還等
配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物に共有持分を有する場合を除き、居住建物を返還しなければなりません(民法1035①)。配偶者が相続開始後に附属させた物がある場合、分離することができない物又は過分の費用を要する場合を除き、収去する必要があります(民法599①、1035②)。また、居住建物に損傷が生じた場合には、通常損耗(例えば、日照等による畳の変色、家具の設置痕など、通常の使用方法によっても生じるであろう損耗のこと)や経年変化(耐用年数経過による設備の故障など)の場合を除き、原状回復義務を負います。ただし、配偶者の責めに帰することができない事由がある場合は原状回復義務を負いません(民法621、1035②)。
第2 配偶者短期居住権(民法1037条ないし1041条)
1. 配偶者短期居住権
配偶者は、相続開始時に被相続人の財産に属した建物に無償で居住していた場合には、以下の期間、居住建物(一部のみを使用していた場合はその部分)を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得します(民法1037①)。
① 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合は、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日
(例)相続開始時1月1日(6か月経過する日=7月1日)、遺産分割成立時5月1日
→7月1日まで配偶者短期居住権を取得
② ①以外の場合は(例えば、居住建物が第三者に遺贈された場合、配偶者が相続放棄した場合など)、居住建物の所有者による配偶者短期居住権消滅の申入れ(民法1037条③)の日から6か月を経過する日
ただし、配偶者が相続開始時に配偶者居住権を取得したとき、又は相続人の欠格事由(民法891、例えば、被相続人を故意に殺害した場合や遺言書を隠した場合など)に該当し若しくは廃除によって相続権を失ったときは配偶者短期居住権を取得しません(民法1037①ただし書)。
居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げることはできません(民法1037②)
従前は、配偶者が相続開始時に被相続人の財産に属した建物に居住していた場合には原則として被相続人と相続人との間で使用貸借契約が成立していたことが推認される(最判平8・12・17判時1589号・45頁)との法理のもと、配偶者の保護が図られていました。しかし、第三者に居住建物が遺贈された場合や被相続人が反対の意思表示をした場合には使用貸借が推認されず、配偶者の居住が保護されない問題がありました。そこで、このような場合であっても配偶者を保護するために配偶者短期居住権が新設されました。
2. 配偶者による使用
配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならず、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることはできません(民法1038①②)。これらに違反した場合には、居住建物取得者は配偶者短期居住権を消滅させることができます(同③)。
配偶者が配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は消滅します(民法1039)。
3. 居住建物の返還等
配偶者は、配偶者短期居住権が消滅したときは、配偶者が配偶者居住権を取得した場合又は居住建物に共有持分を有する場合を除き、居住建物を返還しなければなりません(民法1040①)。
配偶者が相続開始後に附属させた物がある場合、分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する場合を除き、収去する必要があります(民法599条①、1040②)。また、居住建物に損傷が生じた場合には、通常損耗や経年変化の場合を除き、原状回復義務を負います。ただし、配偶者の責めに帰することができない事由がある場合は原状回復義務を負いません(民法621、1040②)。
4. 使用貸借等の規定の準用
配偶者短期居住権については、民法の使用貸借等に関する各規定の準用により、以下のとおり定められています(民法1041)。
配偶者の死亡により、配偶者短期居住権は消滅します(民法597③)。また、居住建物が全部滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、配偶者短期居住権は消滅します(民法616の2)。
損害賠償及び費用償還請求については、期間が制限されており、居住建物所有者が返還を受けた時から1年以内に請求する必要があります(民法600)。
配偶者短期居住権は、配偶者居住権と同様に、第三者に譲渡することができません(民法1032②)。
配偶者短期居住権が定められている場合であっても、配偶者居住権と同様、配偶者は居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます。配偶者が相当な期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物所有者は修繕をすることができます。居住建物が修繕を要するとき、又は居住建物について権利を主張するものがあるときは、配偶者は居住建物所有者に対し遅滞なくその旨通知する必要があります(民法1033③)。もっとも、居住建物所有者が既にこれらの事情を知っているときは、通知する必要はありません(同③ただし書)。
配偶者短期居住権が定められている場合であっても、配偶者居住権と同様、配偶者は居住建物の通常の必要費を負担します(民法1034①)。通常の必要費とは、固定資産税や通常の修繕費のことをいいます。通常の必要費以外の費用については、償還請求をすることができます(民法583②、1034②)。
加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、関西を中心に非上場株式が関わる相続、事業承継、非上場株式の換価・売却に関するご相談・ご依頼をお受けしております。