相続法の概要⑤ ー遺言ー

1.遺言の役割

 遺言は、被相続人が有する意思を後世に残すという役割があります。

 相続財産との関係では、相続人間では、遺産分割に関する話合いがまとまらず、紛争になることがまま見られるところですが、遺言がある場合、遺言に従って相続財産が承継されることになることから、遺産分割に関する話合いを通じて紛争が生じることはありません。

 また、相続人ら間での話合いではまとまらない事項であっても、被相続人の意思には従おうとする相続人もいるでしょう。

 したがいまして、被相続人が遺言を通じて意思を明らかにしておくことで、相続財産を巡って相続人間で生じうる紛争を未然に防ぐことができるという役割があるといえます。

2.遺言の種類・方式

 前記のとおり、普通方式の遺言には自筆証書によるもの、公正証書によるもの及び秘密証書遺言によるものの3つの方式があります(民法第967条)。

(1)自筆証書遺言

 自筆証書遺言とは、被相続人自らが直筆で書き上げる遺言のことをいいます(民法第968条第1項)。

 具体的には、被相続人が遺言書の全文、日付及び氏名を自署し、かつこれに印を押さなければなりません。自筆証書遺言中の加除その他の変更についても、厳格なルールが定められています(同条)。

 遺言のすべての部分を自署することが原則ですが、例外的に、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録を添付するときは、その目録については自署しなくてもよいとされています(民法968条第2項)。この場合、遺言者は、その目録のページごとに署名し、印を押さなければなりません(同項)。

なお、自筆証書遺言は破棄・変造・隠匿される危険性があることから、自筆証書遺言を遺言書保管所(法務局)で保管する制度が設けられています(法務局における遺言書の保管等に関する法律第2条)。遺言者自らが遺言保管所に出頭し、遺言書の保管を申請します(同法第4条)。遺言者は、いつでも保管された遺言書の閲覧や返還を求めることができます(同法第6条、第8条)。

(2)公正証書遺言

 公正証書遺言とは、公正証書として公証人によって作成される遺言のことをいいます(民法第969条)。

 第三者である公証人が被相続人の意思確認を行ったうえで作成するものであることから、被相続人の真意に基づくものではないなどとして法的有効性が争われる余地が少ない遺言です。

 作成する場合の方式については、民法第969条以下が定めておりますが、公証人が主導して行うので、被相続人が自ら方式違反について注意を行う必要が特になく安心して作成できるという点もメリットの一つと考えられます。

(3)秘密証書遺言

 秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしたまま、遺言の存在のみを証明してもらう遺言のことをいいます(民法第970条)。

 秘密証書遺言を作成する場合には、公正証書遺言の場合と同様、公証人の関与が必要となりますが、公正証書遺言の場合と異なり、公証人による口授の手続がないため、公証人等に対しても遺言の内容を伏せて作成できるという点にメリットがあります。

 他方、秘密証書遺言は、被相続人となる者自らが作成する必要があり、方式に違反し無効となるデメリットがあります。

 もっとも、秘密証書遺言としては、方式に欠ける場合であっても、自筆証書遺言に定める方式を具備している場合については、自筆証書遺言として扱われることになります(民法第971条)。そのため、可能な限り自筆で作成するべきです。

3.遺言事項

 遺言事項は、相続分や遺産分割方法の指定、遺贈等財産に関する事項に限られません。身分に関する事項として、例えば、推定相続人の廃除(民法第893条)、子どもの認知(民法第781条第2項)、未成年後見人の指定(民法第839条第1項本文)、さらに、遺言執行に関する事項として、遺言執行者の指定(民法第1006条第1項)を行うこともできます。

4.遺言執行

 前記のとおり、遺言執行者は、遺言により定めることができます。

 遺言執行の対象は、法令で遺言事項として定められている事項(法定遺言事項)に限られます。

 この点、身分関係に関する事項について遺言が行われている場合、認知の手続など法的手続が必要となり、相続人自ら行うのは一般的に困難であると思われます。そのため、法的手続に精通した弁護士を遺言執行者として指定しておくことが適切です。

 一方、財産に関する事項についても、相続人が遺言執行者である場合、執行手続の実施を通じて、他の相続人とトラブルになるケースが多いため、第三者であり中立的な立場であって、かつ相続法に精通した弁護士に依頼することが執行手続をスムーズに進めるために必要です。

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