相続の手引き㊴ 遺留分の放棄
1 相続開始前の遺留分の放棄
⑴ 遺留分放棄の手続が要式行為である趣旨
相続開始前の遺留分の放棄は家庭裁判所の許可を必要とする要式行為(民法1049条1項)であって、被相続人の住所地の家庭裁判所に対して(家事事件手続法216条1項2号)遺留分放棄許可審判の申立てを行うことになります。
遺留分権も個人的な財産権であって自由に処分できるべきですが、被相続人や他の共同相続人から遺留分の放棄を強要されるおそれがあることから、遺留分権者の生活安定および家族財産の公平な分担という遺留分制度の趣旨を没却しないために要式行為となっています。
⑵ 申立てをすることができる者
遺留分を有する第一順位の相続人です。
相続開始前に遺留分の放棄をした者に代襲相続が発生した場合であっても、代襲相続人は遺留分のない相続権を代襲するにすぎないから遺留分侵害額請求権を有していません。
⑶ 遺留分放棄の許可に対する判断
遺留分の放棄の許可に対する判断は慎重に判断するべきものとされており、①遺留分権利者の真意に基づく放棄であること②遺留分を放棄する合理性・必要性があること③遺留分の放棄の代償財産があること等を考慮しているとされています。
⑷ 遺留分放棄の効果
一部の相続人が遺留分を放棄した場合、その反射的効果として、被相続人の自由分が増加するにすぎず、他の共同相続人の遺留分に影響は生じません。
そのため、遺留分放棄の効果を活用する場面としては、被相続人が自由分を活用して贈与や遺贈を行うことが考えられます。
また、遺留分を放棄しても相続分を失うわけではないことから、遺留分を放棄した相続人も遺産分割協議の手続に関与することができます。
⑸ 遺留分放棄許可の取消し
許可の不当を理由に許可の取消しを求めることができ(家事事件手続法78条1項柱書)、許可の審判後に発生した事情の変更を理由とする取消しであってもできます。
もっとも、その取消が認められる場合は制限的に解されており、「遺留分放棄の合理性、相当性を裏付けていた事情が変化し、これにより遺留分放棄の状態を存続させることが客観的にみて不合理、不相当と認められるに至った場合」(東京高決昭和58年9月5日家月36巻8号104頁)とされています。
2 相続開始後の遺留分放棄
相続開始後は、家庭裁判所の許可を要せず遺留分を自由に放棄することができます。
そして、遺留分放棄の意思表示は遺留分を侵害している者に対してなすべきものとされています。