相続法の概要⑩ ー経営承継円滑化法ー

経営承継円滑化法とは、遺留分に関する民法の特例や事業承継税制等を定めた法律のことをいいます。

特に、事業者・経営者が被相続人となる場合において、経営承継円滑化法における遺留分に関する民法の特例は極めて重要です。

相続人の中から被相続人の後継者となる者を選択する場合、遺贈や死因贈与、あるいは生前贈与等を用いて、株式や事業用資産を承継させることが考えられるところ、これら株式や事業用資産は、評価額が高額になる例が多いです。

前記のとおり、相続人(但し、兄弟姉妹を除く。以下同じ。)には遺留分が認められていますので、仮に株式や事業用資産を一人の後継者に承継させた場合、相続人の遺留分を侵害することがあります。

 

遺留分侵害額支払請求権の行使によって直ちに株式や事業用資産が相続人間で分散されることはありません。もっとも、前記のとおり、株式や事業用資産の評価額が高額化する例が多いことから、多額の遺留分の支払い義務を負担することによって、場合によってはその支払いのために、株式や事業用資産を処分して金銭を捻出しなければならない場合も想定されます。

このように遺留分を巡って円滑な事業承継が阻害されることを防止するために定められたのが、上記「遺留分に関する民法の特例」(以下「民法特例」といいます。)です。

民法特例を活用した場合、後継者を含めた推定相続人全員の合意のうえで、被相続人となる者から後継者に対して贈与等が行われた株式や持分(以下「株式等」といいます。)について、①遺留分算定基礎財産から除外(経営承継円滑化法第4条第1号)(除外合意)、又は②遺留分算定基礎財産に参入する価格を合意時の時価に固定(同条第2号)することができます(固定合意)。

また、③①又は②の合意をする際に、併せて、株式等以外の事業用資産についても、①と同様に遺留分算定基礎財産から除外する旨の合意をすることもできます(経営承継円滑化法第5条)。

①及び③により、他の相続人は、株式等及び株式等以外の事業用資産について、遺留分の主張ができなくなります。これにより、後継者において予想外の多額の金銭債務を負担することを防止できます。

また、②により、株式等の価値が急激に変動した場合でも、予期しない多額の出費を負担することを防止できます。例えば、現時点では1株5万円の株式があり、これが被相続人の死亡時点では15万円に値上がりする場合を想定すると、固定合意を利用しない場合、1株15万円として遺留分の算定を行う必要があるのに対し、固定合意を利用する場合、1株5万円として遺留分の算定を行うことで足りることになります。そのため、遺留分侵害額支払請求権を行使された場合に不測の債務を負担するリスクを防止することができます。

このように、民法特例を利用することで、遺留分侵害額支払請求権の行使によって多額の遺留分の支払い義務を負担することになるリスクを軽減し、事業承継を円滑に進めることが可能となりますので、事業承継を検討している事業者・経営者の方は、是非とも活用を検討するべき制度です。

 

もっとも、民法特例を利用するためには、以下の要件を充たしたうえで、推定相続人全員の合意(経営承継円滑化法第4条第1項本文、第5条)と経済産業大臣の確認(第7条第1項、第8条第1項)及び家庭裁判所の許可(第8条第1項)を受ける必要があります(第9条)。

i 中小企業者(第2条)であり、かつ合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること(第3条第1項)

ii 被相続人となる者が過去において会社の代表者であったか又は合意時点において会社の代表者であること(同第2項)

iii 後継者が合意時点において会社の代表者であり、かつ現経営者からの贈与等により株式を取得したことにより、会社の議決権の過半数を保有していること(同第3項)

実務上大きく問題となるのは、推定相続人全員の合意です。

そのため、民法特例の利用を検討する場合には、あらかじめ推定相続人間で不公平が生じないようなスキームを構築し、かつ納得の得られる十分な説明を行い、理解を得ることが重要となります。

このようなスキーム構築や説明については、事業承継に精通した弁護士に相談することが必要です。

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