相続の手引き㉝ 相続分取戻権

【事例】

被相続人には、相続人が配偶者Aと子2人(B,C)がいた場合において、Bが遺産分割前に第三者Dに対して、自己の相続分の全部を譲渡した場合、AとCは、Dが遺産手続に参加しないようにするために、いかなる手続をとることができるでしょうか。

共同相続人の一人が遺産分割前にその相続分を第三者に譲渡した場合に他の共同相続人はその相続分の価額と費用を償還して、相続分を第三者から取り戻すことができます(相続分取戻権。民法905条1項。)。ただし、相続分の譲受人が相続人である場合には、相続分取権を行使することはできないことに注意する必要があります。

⑴ 相続分取戻権は共同して行使する必要はない

相続分の取戻権者は、相続分を譲渡した相続人以外の共同相続人ですが、取戻権の行使は共同相続人全員でする必要は無く、一人でも行使することができます。

⑵ 相続分譲受人の承諾は不要

また、取戻権者の一方的意思表示によって相続分の取戻しの効果が生じるものであって、相続分譲受人の承諾は不要です。

⑶ 費用の償還

相続分取戻権者は、相続分の譲受人に対して譲受された相続分の取戻権行使時における価額及び譲渡の際にかかった費用を現実に提供(通貨及び通貨と同等の支払手段によって相続分の譲受人が相続分の価額・費用を受領できる状態にすること。民法493条本文。)する必要がありますが、実際に譲受人が受領する必要はありません。

この相続分の価額の償還は、相続分の譲渡が無償でなされた時であっても必ず提供しなければなりません。

⑷ 権利行使期間

相続分取戻権は、1か月以内に行使しなければなりません(民法905条2項)。

行使期間の起算点について、①相続分の譲渡時②取戻権者が相続分の譲渡の通知を受けた時③取戻権者が譲渡の事実を知った時とする見解が対立していますが、①相続分の譲渡時とする見解が通説とされています。

⑸ 第三者から相続分を取り戻した場合の相続分

相続分取戻権が単独で行使された場合には取戻権行使者に単独で帰属し、複数人で行使した場合には各権利行使者の法定相続分の割合に応じて各権利行使者に帰属します。

⑹ 本件事例について

AとCはそれぞれ、BがDに対して相続分を譲渡した日の翌日から1か月以内に相続分取戻権を行使し、Dに対して相続分取戻権行使時におけるBの相続分の価額と譲渡に当たって生じた費用を償還することにより、Bの相続分を取り戻すことができます。

仮に、A単独で行使した場合には、相続分はAが4分の3、Cが4分の1となります。

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