募集株式の発行等

募集株式の発行等」とは、新株発行と自己株式処分の両者を含む概念であり、会社法上同じ手続規制を受けます。
募集株式の発行等によっても、少数株主を排除することは叶いませんが、相対的に少数株主の影響力を希釈化(議決権比率を低下)させることが可能な場合もあり、株式の集約と同様の効果が期待できます。

募集株式の発行等にあたっては、後に少数株主からその効力を争われないようにするために法定手続を瑕疵なく履践する必要があり、そのためには法律の専門家である弁護士の助言・関与の下、実施することを強くお勧めします。

以下では、募集株式の発行等の方法として利用されることの多い第三者割当と株主割当について説明します。

第三者割当て

第三者割当手続の流れ

第三者割当て」とは、特定の第三者に対して募集株式の発行等を行うことをいい、後継者や安定株主に対し募集株式の発行等を行うことによって、これと対立する少数株主の影響力を希釈化することができます。

例えば、発行済株式総数1000株の非公開会社において、唯一の取締役兼株主Aが600株、Bが300株、Cが100株保有しており、Aの後継者Dに1000株を割当てる内容の第三者割当てを、AとCが協力して実施した場合を考えてみましょう。

この場合、第三者割当て実施後の持株数は、Aが600株、Bが300株、Cが100株、Dが1000株となり、Aとその後継者Dが併せて3分の2を超える議決権を確保することができ、経営の安定化を図ることができます。

もっとも、第三者割当ては、後継者等に第三者割当てに応じるための資金力がない場合には利用できず、また新株の発行価額等によっては、少数株主との間で新株発行の効力を巡って争いが生じるリスクもあります。

また、非公開会社の場合には、必ず株主総会特別決議を経る必要がありますので、3分の2以上の議決権を確保できない場合には実施することができず、公開会社においても、発行価額が当該第三者にとって特に有利な金額(有利発行)である場合には、株主総会特別決議が必要的となり、当該株主総会において取締役に説明義務が課されるなど、特別の手続規制を受けますので注意を要します。

取締役会設置会社である非公開会社における第三者割当ての具体的手続は、まず法定の募集事項等を株主総会特別決議により決定する募集事項決定手続を経る必要があります。株主総会特別決議により具体的な募集事項等の決定を取締役会(取締役会非設置会社においては取締役)に委任することもできます(募集事項等決定手続)。

その後、募集株式引受けの申込をしようとする特定の者に対して募集事項等を通知し、当該株主からの申込みを受けた後、取締役会において募集株式の割当決定をした上で、割当ての通知をします(通知・割当決定手続)。 

最後に、特定の株主からの出資の履行を経て、資本金や発行済株式総数につき変更がある場合には払込期日から2週間以内に変更登記申請を実施して、手続が完了します。

なお、申込期日までに申込みをしない者や、払込期日までに出資の履行をしない引受人は失権しますので注意を要します。

以上の手続に対して、会社と特定の者との間で「総数引受契約」を締結する場合には、原則として取締役会決議の承認を経ることで、申込みをしようとする特定の者への通知・割当決定手続を省略することができ、実務上第三者割当てが実施される場合には、当該契約を締結させることが多いといえます。

上図は、取締役会設置会社である非公開会社が、第三者割当てによる募集株式の発行等を行う場合の手続の流れを示しています。

株主割当て

株主割当て手続きの流れ

株主割当て」とは、全ての株主に対して現状の株式の保有割合に応じて新たな株式取得の機会を与える募集株式の発行等をいいます。

対立する少数株主との間の資金力に大きな差がある場合には、事実上第三者割当と同様の効果をもたらすことが期待できます。

例えば、発行済株式総数1000株の非公開会社において、唯一の取締役兼株主Aが600株、Bが300株、Cが100株保有しており、当該会社で株主割当てを実施し、その募集事項として、募集株式の数を1000株、1株あたり金10万円とし、株主が保有する株式1株につき1株の割合で募集株式の割当てを受ける権利を与えた場合を考えてみましょう。

この場合、全ての株主が割当てを受ける権利を行使したとき、すなわちAが6000万円、Bが3000万円、Cが1000万円を払い込めば、各株主の持株数はAが1200株、Bが600株、Cが200株となり、結果的に議決権割合に変動はないこととなります。

しかし、Aが600株、Cが100株の割当てを受けたが、Bのみ払込資金が用意できず、割当てを受けなかったときは、各人の持株数は、Aが1200株、Bが300株、Cが200株となり、株主割当て実施前では3分の2の議決権を確保していなかったAが、単独で3分の2の議決権を有することができるようになり、経営の安定化、対立株主の影響力の希釈化を図ることができます。

株主割当ての手続は、第三者割当てと同様にまず募集事項等を決定する手続が必要となります。非公開会社においては、当該決定手続は定款に特段の定めがない限り株主総会特別決議で行いますが、定款に委任規定がある場合には取締役会決議(取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数による決定)で定めます。

その後、原則として申込期日の2週間前までに全株主に募集事項等を通知するとともに、募集株式の引受けの申込をしようとする株主へ通知し、株主からの申込み、出資の履行を経て、資本金や発行済株式総数につき変更がある場合には変更登記申請を払込期日から2週間以内に実施し、手続が完了します。

なお、申込期日までに申込みをしない株主や、払込期日までに出資の履行をしない株主は失権しますので注意を要します。 

上図は、株主割当による募集株式の発行等の手続の流れを示しています。

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