相続の基礎知識㉒-相続分の指定Ⅰ-

第1 はじめに

 前回の遺産分割方法の指定でご紹介したとおり、各相続人が相続する財産を具体的に特定して遺言を行うことが可能です。

 これに対し、遺言では、各相続人の相続分を指定すること(以下「相続分の指定」といいます。)も可能です。

 本稿では相続分の指定の意義及び相続分の指定がされた場合の被相続人の債務の承継について説明いたします。

第2 相続分の指定とは

 遺言によって各相続人が相続する権利義務の割合を定めることを相続分の指定といいます(民法902条1項)。

 法定相続人とその順位(相続の基礎知識①乃至⑦)でご紹介したとおり、民法は、各相続人が相続することになる権利や義務の割合(法定相続分)について定めています(民法900条)。

 そのため、被相続人が、相続人の相続分に関して何も遺言を残していない場合には、相続財産は、各相続人の相続分に応じて相続されることになります。

 これに対して、遺言によって相続分が指定されている場合、指定された相続分のとおりに相続財産が相続されることになります。これは、法定相続分と異なる相続分の指定が行われた場合であっても変わりません。たとえば、夫の相続財産として、銀行預金1,200万円があり、相続人として妻、長男、次男がいたとします。夫が、遺言によって、相続分の指定を行わなかった場合、1,200万円の銀行預金は、法定相続分にどおりに相続されることになりますので、妻は600万円(1,200万円×法定相続分2分の1)を、長男と次男はそれぞれ300万円(1,200万円×法定相続分4分の1)を相続することになります。

 これに対し、夫が、遺言において妻、長男、次男の相続分をいずれも3分の1と定めていた場合、妻、長男、及び次男はそれぞれ400万円(1,200万円×遺言によって指定された相続分3分の1)ずつ相続することになります。

 以上のように相続分の指定を行うことにより、各相続人に法定相続分とは異なる割合で財産を相続させることができます。そのため、相続人に対し、法定相続分とは異なる割合の財産を相続させたい方は、この相続分の指定を利用することで、その目的を達成することができます。

<続く>

相続の基礎知識①-法定相続人とその順位Ⅰ-

相続の基礎知識②-法定相続人とその順位Ⅱ-

相続の基礎知識③-法定相続人とその順位Ⅲ-

相続の基礎知識④-法定相続人とその順位Ⅳ-

相続の基礎知識⑤-法定相続人とその順位Ⅴ-

相続の基礎知識⑥-法定相続人とその順位Ⅵ-

相続の基礎知識⑦-法定相続人とその順位Ⅶ-

相続の基礎知識⑧-相続の承認と放棄Ⅰ-

相続の基礎知識⑨-相続の承認と放棄Ⅱ-

相続の基礎知識⑩-特別受益 相続時の持ち戻しⅠ-

相続の基礎知識⑪-特別受益 相続時の持ち戻しⅡ-

相続の基礎知識⑫-寄与分及び特別寄与料支払請求-

相続の基礎知識⑬-遺留分-

相続の基礎知識⑭-遺留分侵害額請求-

相続の基礎知識⑮-遺言の意義、効力-

相続の基礎知識⑯-遺言の種類-

相続の基礎知識⑰-遺言の変更と撤回-

相続の基礎知識⑱-相続する財産の範囲Ⅰ-

相続の基礎知識⑲-相続する財産の範囲Ⅱ-

相続の基礎知識⑳-遺言執行者の必要性とその役割及び選任方法-

相続の基礎知識㉑-遺産分割方法の指定-

相続の基礎知識㉓-相続分の指定Ⅱ-

相続の基礎知識㉔-遺贈Ⅰ 遺贈の意義-

相続の基礎知識㉕-遺贈Ⅱ 遺贈の担保責任-

相続の基礎知識㉖-遺贈Ⅲ 負担付遺贈-

相続の基礎知識㉗-相続人の廃除-

相続の基礎知識㉘-配偶者居住権Ⅰ-

相続の基礎知識㉙-配偶者居住権Ⅱ-

相続の基礎知識㉚-配偶者居住権Ⅲ-

相続の基礎知識㉛-配偶者居住権Ⅳ-

相続の基礎知識㉜-配偶者居住権Ⅴ-

相続の基礎知識㉝-配偶者居住権Ⅵ-

相続の基礎知識㉞-遺産分割に関する見直しⅠ-

相続の基礎知識㉟-遺産分割に関する見直しⅡ-

相続の基礎知識㊱-遺産分割に関する見直しⅢ-

相続の基礎知識㊲-遺産分割に関する見直しⅣ-

相続の基礎知識㊳-遺言制度に関する見直しⅠ-

相続の基礎知識㊴-遺言制度に関する見直しⅡ-

相続の基礎知識㊵-遺言制度に関する見直しⅢ-

相続の基礎知識㊶-遺言制度に関する見直しⅣ-

相続の基礎知識㊷-遺留分制度に関する見直しⅠ-

相続の基礎知識㊸-遺留分制度に関する見直しⅡ-

相続の基礎知識㊹-遺留分制度に関する見直しⅢ-

相続の基礎知識㊺-相続の効力等に関する見直し-

相続の基礎知識㊻-相続人以外の者の貢献を考慮するための方策-

ページトップへ戻ります