相続法の概要⑦ ー遺産分割Ⅰー

1.遺産分割事件の概要

遺産分割協議とは、相続財産をどのように分けるかを相続人全員で協議する場のことをいいます。

前記のとおり、この協議がまとまらなかった場合には、家庭裁判所において遺産分割調停又は遺産分割審判を行い、家庭裁判所に分割方法を決定してもらうことになります。

なお、離婚の場合と異なり、遺産分割審判には、調停前置主義が適用されません。

そのため、遺産分割調停を行わずに、いきなり遺産分割審判を申し立てることも法律上は可能です。

ただし、この場合であっても、裁判所の判断により調停に付される場合もあります。

 

2.遺産分割に付随する問題

遺産分割に付随する問題としては、相続財産の範囲、相続財産の価値・価格が主に上げられます。

例えば、ある相続財産に関し、他の相続人が相続財産ではなく、当該相続人自らの固有の財産であると主張した場合には、遺産の帰属性を巡って、相続人間で激しく争われることとなります。この場合、ある財産が相続財産であるかが遺産分割調停又は審判で確定した場合であっても、これに不服がある者は、後に民事訴訟を提起することで、紛争を蒸し返すことが可能であると考えられております。そのため、この点に関して激しく争われている事案の場合には、蒸し返しを防ぐべく、遺産確認の訴えという民事訴訟を提起することを検討する必要があります。

さらに、例えば、市場価格のない非上場株式や不動産の価格等については、価値や価格を評価することが難しく、専門的な知見に基づく算定、場合によっては、公認会計士や不動産鑑定士による鑑定も必要となります。

このように、遺産分割においては、民事訴訟提起の検討や相続財産の評価方法に関する主張立証、場合によっては、鑑定評価の必要性について検討しなければならず、これらを適切に判断するためには、争訟に精通した弁護士の関与が必要となります。

 

3.遺産分割の対象

⑴ 総論

遺産分割の対象は、「遺産分割時の相続財産」です。相続開始時から遺産分割までに増減したりした相続財産を対象として、「相続開始時を基準にして算定された具体的相続分」を参考に、個別財産を各相続人に割り付けていきます。

⑵ 遺産分割前に処分された財産

遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合、共同相続人は、全員の同意により、処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができます(民法第906条の2第1項)。財産を処分した者が相続人の場合には、その相続人の同意は不要です(同条第2項)。

例えば、相続財産が預金3000万円、相続人がA、B、Cの3人である場合を想定すると、被相続人の死後にAが預金1000万円を引き出した場合、BとCが同意することで、現存する預金2000万円だけでなく、Aが引き出した預金1000万円も含めた3000万円の相続財産が存在するものとして分割をすることができます。

これにより、処分された財産も含めて遺産分割手続の中で処理することができるようになり、共同相続人間で公平な遺産の分配を図ることができます。

 

4.遺産分割の方法等

⑴ 遺産分割の手段

遺産分割の手段としては、指定分割、協議分割、調停分割、審判分割の4種類があります。

指定分割とは、被相続人が、遺言で遺産分割の方法を定めるものです(民法第908条)。

協議分割とは、相続人全員で協議して遺産を分割するものです(民法第907条1項)。

調停分割とは、相続人間で協議が進まない場合に、家庭裁判所に申し立てて調停により遺産を分割するものです(家事事件手続法244条)。

審判分割とは、相続人間で協議が進まないときに、相続人が家庭裁判所に遺産の分割を求め、家庭裁判所が審判により分割方法を決定するものです(民法第907条2項)。

⑵ 遺産分割の方法

遺産分割の方法について、まず、相続財産を現物のまま分割する方法があります(現物分割)。

現物分割では法定相続分どおりに分割できない場合などには、法定相続分よりも多くの財産を相続する相続人が、法定相続分よりも少ない財産しか相続できない相続人に対して、差額を補填する方法もあります(代償分割)。例えば、相続人が妻と子1人であり、相続財産は1500万円の土地及び預金500万円である場合を想定すると、妻と子の相続分はそれぞれ1000万円となります。このとき、妻が土地を、子が預金を相続した上で、妻が子に対して500万円支払うという方法をとることができます。

また、相続財産を換金してから相続人間で分割する方法も可能です(換価分割)。

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