新・相続の基礎知識②―法定相続人とその順位Ⅱ―
―目次― 第4 法定相続分とは 第5 養子と相続 第6 非嫡出子の法定相続分 第7 相続人になるか否かが問題となる特殊なケース 1. 内縁の妻 2. 認知していない子 3. 胎児 4. 外国人の相続 |
<相続の基礎知識①―法定相続人とその順位Ⅰ―の続き>
▎▎第4 法定相続分とは
相続人が誰か判明した後に問題になるのは、各相続人の相続分はいくらなのかという点です。遺言書で、各相続人の相続分が定められている場合は、原則として遺言書の記載に従うことになりますが、遺言書がない場合は、各相続人の相続分は法定相続分(民法900)によって決まることになります。
ここで、法定相続分とは、法律上定められている相続財産に対する各相続人の持分のことです。法定相続分は持分であり、2分の1や、3分の1といった割合で表されます。具体的には、相続人の法定相続分は以下の表のとおりとなります。代襲相続人の法定相続分は被代襲者と同じです。
なお、昭和55年民法改正により、配偶者の法定相続分が引き上げられました。このため、昭和55年12月31日までに死亡した被相続人の相続については、改正前の民法が適用されます(以下の表の[]のとおりです)。
【相続人が配偶者と子のケース】
配偶者 |
第1子 |
第2子 |
第3子 |
|
配偶者 子 |
2分の1 [3分の1] |
2分の1 [3分の2] |
||
配偶者 子2人 |
2分の1 [3分の1] |
4分の1 [3分の1] |
4分の1 [3分の1] |
|
配偶者 子3人 |
2分の1 [3分の1] |
6分の1 [9分の2] |
6分の1 [9分の2] |
6分の1 [9分の2] |
配偶者 子X人 |
2分の1 [3分の1] |
子1人あたりの法定相続分 =2分の1[3分の2]÷子の人数 |
【相続人が配偶者と親のケース】
配偶者 |
親 |
親 |
|
配偶者 親1人 |
3分の2 [2分の1] |
3分の1 [2分の1] |
|
配偶者 親2人 |
3分の2 [2分の1] |
6分の1 [4分の1] |
6分の1 [4分の1] |
【相続人が配偶者と兄弟姉妹のケース】
配偶者 |
兄弟姉妹 |
兄弟姉妹 |
兄弟姉妹 |
|
配偶者 兄弟姉妹1人 |
4分の3 [3分の2] |
4分の1 [3分の1] |
||
配偶者 兄弟姉妹2人 |
4分の3 [3分の2] |
8分の1 [6分の1] |
8分の1 [6分の1] |
|
配偶者 兄弟姉妹3人 |
4分の3 [3分の2] |
12分の1 [9分の1] |
12分の1 [9分の1] |
12分の1 [9分の1] |
配偶者 兄弟姉妹X人 |
4分の3 [3分の2] |
兄弟姉妹1人あたりの法定相続分 =4分の1[3分の1]÷兄弟姉妹の人数 |
▎▎第5 養子と相続
法律上、養子は、養子縁組の日から、養親の嫡出子(婚姻関係にある男女の間に生まれた子)としての地位を取得します(民法809)。そのため、被相続人に養子がいる場合、養子も実の子と同様に相続人となります。相続人としての順位や法定相続分の割合も、実の子とまったく同じです。
養子には、養子縁組後も実の親との親族関係がこれまでどおり存続する普通養子と、養子縁組によって、実の親や血族との親族関係が終了する特別養子*があります。特別養子の場合は、実の親との親族関係が終了しているため、現在の養親との関係でのみ相続人となります。これに対して、普通養子の場合には、実の親との親族関係も継続しているため、実の親と養親双方の関係で相続人となる点で注意が必要です。
*特別養子縁組は、家庭裁判所の審判により成立します(民法817の2①)。養親の夫婦共同縁組、養親・養子の年齢、父母の同意、子の利益のための必要性が要件になります。
▎▎第6 非嫡出子の法定相続分
非嫡出子(婚外子)とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子を意味します。平成25年改正前の民法900条4号ただし書は、非嫡出子の法定相続分を、嫡出子(婚姻関係にある男女の間に生まれた子、婚内子)の法定相続分の2分の1と定め、非嫡出子と嫡出子との間に差を設けていました。このような差が生まれた理由は、正当な婚姻を尊重することにあるといわれていました。
この点、最高裁は、両者の差については合理的な根拠があるとして、両者の差を定めた民法900条4号ただし書は憲法に違反しないとの判断を下していました(最大決平成7年7月5日・民集49巻7号1789頁他)。
しかし、両者の間に差を設けることには強い批判もあり、下級審判決では両者の差を定めた民法900条4号ただし書は、憲法に違反するとの判断を下すケースもあり、またその後の最高裁も結論としては合憲とするものの、その内容からするといつ判例を変更して違憲と判断したとしても何ら不思議はない状況でした。
そして、平成25年9月4日、最高裁大法廷は、家族形態の多様化やそれに伴う国民の意識の変化などから、父母が婚姻関係になかったという子にとっては自ら選択する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるとの考えが確立されてきているとして、両者の差を定めた民法900条4号ただし書は、遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項(法の下の平等)に違反するとの判断を下しました(最大決平成25年9月4日民集67巻6号1320頁)。
上記最高裁決定を受けて、平成25年12月5日には民法900条4号ただし書の該当部分を削除する「民法の一部を改正する法律案」が国会で可決成立し、平成25年9月5日以降に開始した相続については、非嫡出子についても嫡出子と平等に相続分が認められるようになりました。
嫡出子と非嫡出子がいる場合、感情のもつれから争いとなる事例が多いのですが、法定相続分及び遺留分も平等であることを前提に紛争を回避するように考慮した相続対策をする必要があります。また、平成25年9月5日より前のケースでは、旧法が適用される場合があるため注意が必要です。
▎▎第7 相続人になるか否かが問題となる特殊なケース
1.内縁の妻
内縁の妻は、配偶者ではありませんので、法定相続人にはなりません。
そのため、被相続人が、内縁の妻に対して自分の遺産を譲りたい場合には、遺言書において、内縁の妻に対して遺贈する旨の記載をしておく必要があります。ただし、被相続人に法定相続人が存在する場合には、当該法定相続人に遺留分が認められるため、遺言の内容には注意する必要があります。
また、被相続人に相続人が存在しない場合には、内縁の妻が、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」、すなわち、特別縁故者として、家庭裁判所へ請求することによって、遺産の全部又は一部を譲り受けることができる場合があります(民法958の2①)。
2.認知していない子
世の中では、婚姻関係にない男女の子について、男(父)が子を認知しないケースがしばしばあります。男(父)が認知しなければ、両者に親子関係は生じないので、子が男(父)の相続人になることはありません。このような場合の対策として、子又はその法定代理人たる女が、男(父)に対して「認知の訴え」を提起し、強制的に認知させる方法があります(民法787本文)。
3.胎児
胎児は、すでに生まれたものとして相続人となることができます(民法886①)。たとえば、夫と妻(妊娠中)の2人家族のケースで、夫が他界した場合は、胎児も相続人になるのです。ただし、死産の場合には、初めから相続人にならなかったものとして扱われます(民法886②)。
4.外国人の相続
外国人が亡くなった場合の相続に、日本の民法が適用されるのか問題となります。この点、「法の適用に関する通則法36条」によると、相続は、被相続人の本国法によることになっているため、外国人の遺産の相続に、日本の民法は適用されません。
そのため、被相続人が外国人の場合は、被相続人の本国法を調査した上で、相続手続を進めていく必要があります。
<新・相続の基礎知識 ー相続の承認と放棄ーへ続く>
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