新・相続の基礎知識①―法定相続人とその順位Ⅰ―
―目次― 第1 誰が相続人になるのか 1. 配偶者はつねに相続人になる 第2 代襲相続 1. 代襲原因 2. 代襲される者(被代襲者) 3. 代襲相続人 4. 再代襲 第3 相続欠格 |
▎▎第1 誰が相続人になるのか
人が死亡した場合に、誰がその人の相続人になるのかは極めて重要な事柄です。誰が相続人になるのかを理解して頂くために不可欠な知識としては2つあります。1つ目は「配偶者は常に相続人になる」こと、2つ目は「相続人には順位がある」ことです。
1.配偶者はつねに相続人になる
まず、「配偶者はつねに相続人になる」ことを知る必要があります(民法890前段)。配偶者との仲が悪いとか、配偶者とは長期間別居しているなどの事情は、基本的には関係ありません(ただし、推定相続人の廃除(民法892、893)が認められた場合は例外的に関係します)。離婚を考えている方の中には、仲が悪い配偶者に遺産が渡らないように遺言を作成する方もいます。
誰が相続人かを考える際には、まず、その人に配偶者がいるかどうかを確認する必要があります。
2.相続人の順位
相続人には法律上は順位が決まっています。具体的には、第1順位として「被相続人の子などの直系卑属*」、第2順位として「被相続人の親などの直系尊属**」、第3順位として「被相続人の兄弟姉妹」という順位になっているのです(民法887①、889①)。
* 直系卑属とは、血統が直上・直下するかたちでつながる親族のうち、自身より後の世代に属する者をいいます。たとえば、子、孫、曽孫などのことを指します。
** 直系尊属とは、血統が直上・直下するかたちでつながる親族のうち、自身よりも前の世代に属する者をいいます。たとえば、父母、祖父母、曽祖父母などのことを指します。
この相続人の順位が意味するのは、第1順位の者がいない場合に、初めて第2順位の者が相続人になり、第1順位も第2順位の者もいない場合に、初めて第3順位の者が相続人になるということです。
(例1)夫、妻、夫の母親の3人家族のケースで、夫が死亡した場合
→妻、夫の母親が相続人になる(第1順位なし→第2順位)。
(例2)夫、妻、子、夫の母親がいるケースで、夫が死亡した場合
→妻、子が相続人になる(第1順位)。夫の母親は相続人にならない。
このように、誰が相続人になるのかを判断するためには、相続人の順位について知る必要があるのです。
以上のとおり、「誰が相続人になるのか」という問題に対しては、「①配偶者がいる場合は配偶者と②相続人の順位が若い者」が正答となります。
▎▎第2 代襲相続
また、誰が相続人になるのかを考える際には、代襲相続についても理解しておく必要があります。代襲相続とは、本来相続人となるはずであった子や兄弟姉妹が、相続の発生前に死亡などの理由により相続権を失ったときに、その人の子が、代わりに相続することを意味します(民法887②本文)。
(例)父、子、孫の3人家族のケースで、父が死亡する前に子が死亡した場合
→父が死亡した場合には、子の代わりに孫が代襲相続人となる
このように、本来相続人となるはずであった子の代わりに、孫が相続することを代襲相続といいます。もっとも、代襲相続が認められるのは、以下のとおり、法律上、一定の場合に制限されています。
1.代襲原因
代襲相続が生じるのは、次の3つの事由によって相続権を失った場合に限られています(民法887②本文)。
- 相続開始前の死亡
- 相続欠格
- 相続廃除
ここでは、代襲原因に相続放棄が含まれていないことに注意する必要があります。
(例)父、子、孫の3人家族のケースで、父が死亡し、子が相続放棄した場合
→子の代わりに孫が相続人となることはできない
2.代襲される者(被代襲者)
代襲される者(被代襲者)は、被相続人の子及び兄弟姉妹に限られています(民法887②、889②)。被相続人の配偶者や直系尊属が代襲されることはありません。
3.代襲相続人
代襲相続人となるのは、被代襲者の子のみです(民法887②)。子が被代襲者となる場合は孫が代襲相続人となり、被相続人に子がおらず兄弟姉妹が被代襲者となる場合は兄弟姉妹の子、すなわち甥姪が代襲相続人となります。
また、被相続人の子の子(要するに「孫」)が代襲相続人となるためには、その子が被相続人の直系卑属でなければなりません(民法887②ただし書)。
(例)父、養子縁組した子、その子のもともとの連れ子のケースで、父が死亡する前に、子が死亡した場合
→父が死亡した場合であっても、連れ子は代襲相続人とならない。
例のようなケースでは、養親にとって連れ子は直系卑属に当たらないため、連れ子が代襲相続人となることはありません。なお、被相続人の兄弟姉妹が被相続人の親の養子であり、当該兄弟姉妹を代襲相続する場合も、その養子縁組前に生まれた養子(被代襲者である兄弟姉妹)の子は代襲相続人にはなりません(最判令和6年11月2日令和5年(行ヒ)第165号)。
4.再代襲
代襲相続人である孫が被相続人の死亡より先に相続権を失った場合、被相続人のひ孫に再代襲が認められています(民法887③、例1)。
他方、被相続人の兄弟姉妹の子(甥、姪)までは代襲相続が認められていますが、兄弟姉妹の孫については、再代襲は認められていません(民法889②、例2)。
(例1)子、孫が既に死亡していて、ひ孫がいるケースで、父が死亡した場合
→ひ孫が再代襲により相続人となる。
(例2)父、母、兄、兄の子が既に死亡していて、兄の孫がいるケースで、弟が死亡した場合
→兄の孫は、再代襲しないため、相続人にならない。
▎▎第3 相続欠格
相続人が、以下の①から⑤の場合に該当するときは、相続権が剥奪されることになります(民法891Ⅰ~Ⅴ)。これを相続欠格といいます。もっとも、相続欠格となるのは、被相続人を故意に殺害した場合や遺言書を隠した場合など極めて限定的な場合です。
①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者
(ただし、その者に是非の分別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは除かれます。)
③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
<新・相続の基礎知識 ―法定相続人とその順位Ⅱ―へ続く>
新・相続の基礎知識②―法定相続人とその順位Ⅱ―|弁護士による解説と相談 相続・事業承継・M&A
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