相続の手引き⑤ー相続放棄がある場合

相続放棄とは、相続開始による包括承継の効果を全面的に拒否する意思表示をいいます。

相続の放棄をした者は、その相続に関して、はじめから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。相続放棄がされた場合に代襲相続は生じませんので、相続放棄をしなかった相続人が相続をすることになります。

相続放棄をするためには、自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません(民法938条、915条1項)。この期間を「熟慮期間」といいます。「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、「相続人が相続開始の原因となる事実の発生を知り、かつそのために自己が相続人となったことを覚知したとき」をいうと解されています(大決大正15年8月3日民集5巻679頁)。相続人が複数いるときは、熟慮期間は相続人ごとに進行します(最判昭和51年7月1日家月29巻2号91頁)。

熟慮期間の起算点について、判例で認められた例外があり、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたことにつき相当な理由があると認められるときは、熟慮期間は、相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識すべき時から起算するとされています(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)。この熟慮期間の例外則は、実務上、相続財産が全く存在しないと信じた場合のほか、債務超過であることを知らなかった場合にも拡張して適用されることがあります。 

相続放棄は、一度受理されると熟慮期間内であっても撤回できませんが(民法919条1項)、制限行為能力や錯誤・詐欺等による取消しは妨げられません(民法919条2項)。

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