相続の手引き㉑ 家事従事型の寄与分
「被相続人の事業に関する労務の提供」により、相続財産の維持又は増加について「特別の寄与」がある場合には寄与分が認められる場合があります(民法904条の2第1項)。
次の事例において、長男は次男に対して寄与分の主張をすることができるでしょうか。
【事例】
被相続人には、相続人に子2人(長男と次男)がいたところ、長男は大学卒業後に就職していた商社を退職した後、被相続人が経営していた商店に10年間従事し、店舗を新築して事業を拡大する等事業の運営や経営に携わっていました。長男が運営や経営に携わって商店の事業が拡大したことにより、10年間で商店の売り上げが飛躍的に増加しました。なお、長男は商店から年間500万円の給与を支払われていました。その一方、次男は全く事業の運営や経営に従事していませんでした。
1 相続人であること
寄与分を主張する者は、相続人に限定されているところ、長男は被相続人の子であって、相続人であるため、寄与分を主張することができます(民法904条の2第1項)。
2 特別の寄与に当たるか
家事への従事が「特別の寄与」に当たるかを判断するに当たっては、①当該行為自体が特別か②当該行為に対する対価の授受があるか③継続性があるか④専従性があるかという点が考慮されます。
① 行為自体が特別か
通常であれば、被相続人が第三者に対して有償で委任したり、第三者を雇用する行為であれば特別であると考えられます。
例えば、商店の経営において電話番や店番をしていたにすぎない場合には、親子間であれば当然すべき援助の範囲であるとして特別の寄与に当たらないと評価される事情になります。
② 対価の授受があるか
報酬や賃金が産業別の賃金センサスなどと比較して第三者に支払う対価よりも低額である場合には、対価の授受がないと評価される可能性があります。
③ 継続性があるか
ごく短期間しか従事していないのであれば、親子間で通常期待される程度の行為であるとして特別の寄与に当たらないと評価される可能性があります。
④ 専業性があるか
原則として当該事業に専従していることが要求されます。兼業であっても直ちに専業性は否定されませんが、一定の負担を要する労務であることが要求されます。
本件においては、賃金の授受があり商店の経営や運営に長年携わり専従しているといえ、長男の家事の従事は特別であるといえます。
3 寄与行為と財産の維持・増加との間の因果関係
事業からの収益が生じたことにより相続財産が増加したことが必要となります。
事例においては、商店の収益が増加したことによって、被相続人の財産の維持・増加がされたことが明らかな場合には、長男の寄与分の主張が認められることになります。