相続の手引き㉞ 相続分の放棄

相続分の放棄とは、共同相続人が遺産に属する積極消極財産の全体に対して有する権利義務の包括的な割合的持分を放棄し、遺産分割手続における自己の取得分をゼロとする一方的な意思表示です。

相続分を放棄した者は遺産分割手続に参加することができなくなります。

⑴ 相続放棄との違い

相続放棄は、家庭裁判所への相続放棄の申述(民法938条)が受理されることによって、はじめから相続人とならなかったものとみなされ相続人としての地位を失い(民法939条)、被相続人の積極財産(不動産、預金)・相続債務(被相続人の借金等)のいずれも承継しません。

一方で、相続分を放棄したとしても、相続放棄とは異なり、相続人の地位を失いません

そのため、相続債務についての外部的な負担義務も免れないものと解されており、被相続人の債権者から弁済の請求を受けた場合には相続債務の支払いに応じなければなりません。

⑵ 相続分の放棄の方式

相続分の放棄について、方式は特段定められていませんが、遺産分割調停ないし審判において、相続分の放棄が行われた場合には、相続分放棄者の真意を確認するため、放棄者が実印で押印した相続分放棄届出書兼相続分放棄証書に、譲渡人の印鑑証明書を添付させて行わせます。

⑶ 放棄された相続分の帰属先

相続分の放棄がなされた場合、放棄された相続分の帰属は放棄者の意思に従うと解する裁判例があります(東京家審平成4年5月1日家月45巻1号137頁)。

例えば、被相続人の配偶者Aと被相続人の子であるB、Cがおり、BがAの相続分を増やす趣旨で相続分を放棄した場合には、Aの相続分が4分の3、Bが0、Cが4分の1となります。

もっとも、放棄者の意思が不明な場合もあることから、放棄された相続分は他の共同相続人に相続分に応じて帰属すると解するのが実務上有力な立場です。

そのため、相続分を放棄したBの意思が不明の場合には、Bが放棄した相続分(4分の1)をAとCの相続分率(Aが2/3、Bが1/3)に応じて配分することになるため、Aの相続分は3分の2(=2/3×1/4+1/2)、Cの相続分は3分の1(=1/3×1/4+1/4)となります。

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