相続の手引き㉙ 相続開始後の相続財産の維持・管理に貢献した場合

1 相続開始後の相続財産の維持・管理に要する費用の負担

相続財産に関する費用として相続財産中の現金から支払うことができ、共同相続人間での合意の下で一部の相続財産を現金化して支払うこともできます(民法885条)。

もっとも、財産の維持・管理のための費用を相続財産から充てることができない場合は、各共同相続人が法定相続分に応じて費用を負担することになります(民法253条1項)。

2 相続財産の維持・管理のために負担した費用の清算方法

例えば、相続財産に収益物件があり、一部の共同相続人のみが収益物件の管理や家賃滞納者に対して賃料の督促、借家人に対する立退き交渉等を行って収益を維持し、当該収益物件の固定資産税やローンの支払いをする等して相続財産の維持・増加に貢献した場合に、他の相続人に対して自己の貢献をどのように主張することができるでしょうか。

⑴ 寄与分の主張の可否

寄与分の算定は、「被相続人が相続開始のときにおいて有した財産」をもとに行われる(民法904条の2)ため、相続開始後に遺産の維持・増加に寄与した行為については寄与分を主張することはできません。

⑵ 民事訴訟の提起

相続財産の維持・管理に関する費用は、相続財産ではないため遺産分割の対象とはならず、基本的には遺産分割の手続きとは別に民事訴訟を提起して費用を清算することになります。一部の相続人が、相続財産の維持・管理のために自ら負担した費用を他の相続人に対して請求する法的構成としては、

①準委任契約に基づく費用償還請求(民法656条・650条)

②事務管理(民法697条)に基づく有益費償還請求

③不当利得返還請求権(民法703条)

が考えられます。

もっとも、実務上は、遺産分割調停の場合には当事者全員の合意があれば、遺産分割の対象に含めることができるものとされています。

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