相続法の概要⑨ ー遺留分ー

1.遺留分とは

遺留分とは、 相続人に法律上保障された相続の一定の割合のことをいいます。 具体的な遺留分の額は、直系尊属のみが相続人である場合については、相続財産の3分の1、その他の場合には相続財産の2分の1が遺留分となります(民法第1042条第1項)。相続人が複数いる場合には、この割合に自己の相続分を乗じたものが遺留分となります(民法第1042条第2項)。

 

2.遺留分侵害額支払請求権

相続をする場合、相続人が法定相続分に従って相続財産を承継するのが原則です。しかしながら、被相続人は遺言によって、一人の相続人に一切相続させないなど、法定相続分とは異なる方法を指定することができます。そうすると、遺言の内容次第では、相続人が遺留分に満たない財産しか相続できない場合があります。このような場合に、当該相続には、被相続人から遺贈を受けた者又は贈与を受けた者に対して、遺留分を侵害された額に相当する金銭の支払いを請求することができます(民法第1046条第1項)。

遺留分侵害額の支払を請求できる者は、兄弟姉妹以外の相続人、すなわち配偶者、子及び直系尊属です(民法第1042条、同第887条、同第889条、同第890条)。

行使できる遺留分の範囲は、子や配偶者など直系尊属以外の相続人がいる場合は、相続財産に2分の1を乗じた額に対して、自己の法定相続分をさらに乗じた額となります(民法第1042条1項第2号)。直系尊属のみが相続人である場合は、相続財産に3分の1を乗じた額に対して、自己の法定相続分をさらに乗じた額となります(同条第1号)。 例えば、相続財産が2000万円であり、相続人に妻、子A、子Bがおり、子Aに2000万円を相続させる内容の遺言が存在する場合を想定すると、子Aに対して妻、子Bが請求できる遺留分侵害額は、次の計算により、妻が500万円、子Bが250万円となります。

 妻:2000万円×2分の1×2分の1=500万円

 子B:2000万円×2分の1×4分の1=250万円

遺留分侵害額支払請求権は、被相続人から遺贈又は贈与を受けた者に対して行使することができます(民法第1046条第1項)。相続人以外の者に対する贈与は原則相続開始前1年間になされたもの、相続人に対する贈与は原則相続開始前10年間になされたものです(民法第1047条1項、第1044条第1項、第3項)。

遺留分侵害額支払請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間という短期消滅時効が定められています(民法第1048条前段)。なお、相続開始の時から10年の経過によって消滅します(同条後段)。

遺留分侵害額支払請求権の行使については、法令上特に定めがありませんので、訴訟を提起するほか、訴外で同請求権を行使する旨の文書を送付する方法が考えられます。実務上、遺留分侵害額支払請求権を行使したことを明らかにする趣旨で、内容証明郵便が用いられることが多いです。

 

急に多額の現金を用意することができず、支払いに窮する相続人が発生することを踏まえ、裁判所により、相当の期限を設けて支払いを猶予する制度が設けられております(民法第1047条第5項)。

ページトップへ戻ります