相続の手引き⑰ 相続させる旨の遺言

⑴ 相続させる旨の遺言の法的性質

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺言書の記載からその趣旨が遺贈でないことが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、当該相続人に単独で相続させる遺産分割の方法を定めた遺言であると解すべきであるとするのが判例の立場です(最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁)。

そして、このような遺産分割方法の指定としての相続させる旨の遺言は「特定財産承継遺言」(民法1014条2項)といいます。

⑵ 効力

特定財産承継遺言は、当該遺言において相続人よる承継を当該相続人の意思表示にかからせた等の特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は被相続人の死亡の時に相続により承継されます(前掲最判平成3年4月19日)。

そのため、このような遺言に従って特定の相続人が特定の財産を相続により承継するためには、遺産分割協議は不要です。

もっとも、「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、遺言者が当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情がない限りその効力は生じないと解されており(最判平成23年2月22日民集 65巻2号699頁)、かかる特段の事情が認められない場合には遺言の効力が認められず、推定相続人の代襲者等は遺言に基づき被相続人の遺産を相続することはできません。

⑶ 相続させる旨の遺言により財産を相続した者は対抗要件を具備することなく権利を主張できるか

相続による権利の承継において、平成30年改正前は、「相続させる」旨の遺言により不動産の権利を取得した者は、法定相続分を超える部分についても、登記なくして第三者に対抗することができると解されていました(最判平成14年6月10日民集206号445頁)。

しかし、平成30年改正により同判例は修正され、相続分を超える部分については登記、登録、その他の対抗要件を具備しなければ第三者に対抗できないと規定されました(民法899条の2第1項)。

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