相続法の概要① ー相続における弁護士の役割ー

 親にとって、自らの死後とはいえ、いずれも大切な子どもたちが、相続財産を巡って相争うことは、本当に悲しむべきことです。親であれば、誰もが避けたいと思っているにも拘わらず、実際には、相続を巡って争いとなってしまうことがしばしばあります。しかも、相続争いは年々増加しています。

 このように、大切な子どもたちが相争うのを防ぐためには、被相続人が事前に相続対策を行っておく必要があります。事前に相続対策を行うためには、後に相続を巡る紛争が生じた場合のリスクを事前に想定しておく必要があります。

 また、既に相続財産を巡って争いとなってしまったケースなどもあるかもしれません。

 そのような場合、遺産分割調停や遺産分割審判、民事訴訟等の法的手続に備え、できるだけ早期に弁護士に相談することが不可欠です。

 以下では、紛争を未然に防ぐための弁護士の活用と紛争が生じ、又は生じる恐れがある場合の弁護士の活用とに分け、弁護士に依頼するメリットについて簡単にご説明させていただきます。

1.紛争を未然に防ぐための弁護士の活用

 前記のとおり、遺言がない場合には、相続人全員が関与する遺産分割協議を行い、相続人全員が合意に至る必要があります。遺産分割協議の場では、些細なことで感情的になり争いに発展し、合意に至らない例が多々あります。

 他方、被相続人が生前遺言を行っている場合には、遺言が無効であるなどとして争われない限り、遺言書の内容のまま相続財産が分割されますので、遺言書がない場合と比べて、後に紛争となる余地が少なくなります。

 したがいまして、紛争を未然に防ぐためには、遺言書を作成することが必要です。

 遺言書を作成するに当たっては、弁護士に依頼するのがお勧めです。以下、ご説明いたします。

 まず、普通方式の遺言には、自筆証書によるもの、公正証書によるもの及び秘密証書によるものの3つの方式があります(民法第967条)。

 いずれの方式の遺言であっても、法が定める形式さえ守れば、作成した内容のまま遺言の効力が生じます。

 しかしながら、法が定める形式は厳格であり、形式の一つでも欠けていたりした場合には、原則として、そのような遺言は無効となります。

 また、作成された遺言が被相続人において認知症に罹患した状態で作成されたものであるとか偽造されたものであるなどとして、被相続人の真意に基づいて作成されたものであるか否かが後に相続人間で争われる例も数多く存在します。

 そのため、弁護士に依頼し、弁護士の関与のもと、遺言書を作成することによって、法が定める形式違反や真意に基づかないものであるなどといった理由で、無効となってしまうことをあらかじめ防ぐことができます。

 これに加え、後述するように、相続人には遺留分という権利が法律上認められているところ(民法第1046条)、遺留分侵害額支払請求権の行使という形で、相続人間で紛争が生じる例も数多存在します。

 そのため、遺言の内容を検討するに当たっても、弁護士に依頼することで、各相続人の遺留分に配慮した内容とし、紛争を未然に防ぐことができるメリットがあります。

2.紛争が生じ、又は紛争が生じた後に弁護士に依頼するメリット

 相続の事例で弁護士に依頼する主な場合としては、主に遺産分割協議が開催されない場合又は開催されても分割に関する具体的な話合いが進まない場合、一部の相続人にのみ不利な分割案が提示されており、これに納得できない場合、相続人の一部が相続財産を隠匿している場合、相続財産を私的に流用している疑いがある場合、相続財産の範囲及び評価や遺留分の有無・程度で争いが生じている場合、並びに遺言能力の有無で争いが生じている場合などが考えられます。

 この点、遺産分割協議が開催されない場合又は開催されても分割に関する具体的な話合いが進まない場合については、第三者であり専門家である弁護士が後見的な立場から介入することで、一気に話合いがスムーズに進むことがあります。

 また、他の相続人と比較して、不利な分割案が提示されている場合については、弁護士が介入することによって、相続財産の範囲を調査し、又は開示させたうえで、交渉を行い、適切な分割を図るよう要求していくことが可能です。交渉段階から弁護士に依頼しておくことで、遺産分割協議中における他の相続人の発言等を踏まえた調停及び審判対応も可能となるため、早期に弁護士に依頼しておくことは極めて重要です。

 相続人の一部が相続財産を私的に流用している疑いがある場合や相続財産の範囲に争いが生じている場合についても、弁護士が金融機関や各種公官庁への照会、証拠の検討等を通じて、流用の事実を明らかにし、相続人の一部が固有財産であると主張している財産を相続財産に含めさせることができる場合もあります。また、相続財産中に非上場株式や不動産がある場合には、その評価額を巡って争いとなることもあります。この場合には、評価方法が適切、又は不適切であることを資料等に基づき説得的に主張して、より有利な解決を図ることができる場合もあります。また、当該資料として使用するために、場合によっては鑑定を利用することも有用です。

 同様に、遺留分の有無・程度に争いが生じている場合についても、遺留分算定の基礎財産の額を明らかにし、遺留分の主張を認めさせ、又は遺留分の主張を排斥することが可能となる場合もあります。

 さらに、遺言能力の有無に争いが生じている場合にも、医療記録や介護記録、要介護認定に係る記録などの客観的な証拠・資料を取り寄せ、また、関係者から聴き取りを行うなどして被相続人における遺言書作成時の遺言能力の有無を明らかにすることができます。保管期間が存在する資料もあることから、遺言の有効性が争いとなっている事例については、早期に弁護士に依頼することがお勧めです。

 このように、相続で争いが生じ、又は争いが生じる可能性のある場合には、弁護士に依頼することで、納得の得られる解決を図ることが可能となります。

ページトップへ戻ります