相続の基礎知識㊺-相続の効力等に関する見直し-

1 はじめに

 共同相続における権利の承継の対抗要件、相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使、遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等、相続の効力等に関する規定も見直されました。これらの規定は、令和元年7月1日に施行されます。

2 共同相続における権利の承継の対抗要件

 相続による権利の承継は、遺産分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないものとされました(民法899条の2①)。不動産について、相続させる旨の遺言による権利の承継は、登記なくして第三者に対抗できるとされていましたが(最判平成14年6月10日)、平成30年相続法改正により登記が必要となります。遺言の有無及び内容を知り得ない相続債権者等の利益を重視したものです。

 債権を承継した場合、法定相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産分割により承継した場合は遺産分割の内容)を明らかにして債務者に通知したときは、共同相続人全員が債務者に通知したものとみなされます(同条②)。

  

3 相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使

 被相続人が相続開始時に有した債務の債権者は、遺言による相続分の指定(民法902条)がされた場合であっても、各共同相続人に対し、法定相続分に応じてその権利を行使することができます。ただし、債権者が共同相続人の一人に対して指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りではありません(民法902条の2)。

4 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等

 遺言執行者がある場合、遺言執行の妨害の禁止(民法1013条①)に違反する行為は無効となります。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができません(民法1013条②)。

 相続債権者を含む相続人の債権者は、上記にかかわらず、権利を行使することができます(民法1013条③)。

<続く>

相続の基礎知識①-法定相続人とその順位Ⅰ-

相続の基礎知識②-法定相続人とその順位Ⅱ-

相続の基礎知識③-法定相続人とその順位Ⅲ-

相続の基礎知識④-法定相続人とその順位Ⅳ-

相続の基礎知識⑤-法定相続人とその順位Ⅴ-

相続の基礎知識⑥-法定相続人とその順位Ⅵ-

相続の基礎知識⑦-法定相続人とその順位Ⅶ-

相続の基礎知識⑧-相続の承認と放棄Ⅰ-

相続の基礎知識⑨-相続の承認と放棄Ⅱ-

相続の基礎知識⑩-特別受益 相続時の持ち戻しⅠ-

相続の基礎知識⑪-特別受益 相続時の持ち戻しⅡ-

相続の基礎知識⑫-寄与分及び特別寄与料支払請求-

相続の基礎知識⑬-遺留分-

相続の基礎知識⑭-遺留分侵害額請求-

相続の基礎知識⑮-遺言の意義、効力-

相続の基礎知識⑯-遺言の種類-

相続の基礎知識⑰-遺言の変更と撤回-

相続の基礎知識⑱-相続する財産の範囲Ⅰ-

相続の基礎知識⑲-相続する財産の範囲Ⅱ-

相続の基礎知識⑳-遺言執行者の必要性とその役割及び選任方法-

相続の基礎知識㉑-遺産分割方法の指定-

相続の基礎知識㉒-相続分の指定Ⅰ-

相続の基礎知識㉓-相続分の指定Ⅱ-

相続の基礎知識㉔-遺贈Ⅰ 遺贈の意義-

相続の基礎知識㉕-遺贈Ⅱ 遺贈の担保責任-

相続の基礎知識㉖-遺贈Ⅲ 負担付遺贈-

相続の基礎知識㉗-相続人の廃除-

相続の基礎知識㉘-配偶者居住権Ⅰ-

相続の基礎知識㉙-配偶者居住権Ⅱ-

相続の基礎知識㉚-配偶者居住権Ⅲ-

相続の基礎知識㉛-配偶者居住権Ⅳ-

相続の基礎知識㉜-配偶者居住権Ⅴ-

相続の基礎知識㉝-配偶者居住権Ⅵ-

相続の基礎知識㉞-遺産分割に関する見直しⅠ-

相続の基礎知識㉟-遺産分割に関する見直しⅡ-

相続の基礎知識㊱-遺産分割に関する見直しⅢ-

相続の基礎知識㊲-遺産分割に関する見直しⅣ-

相続の基礎知識㊳-遺言制度に関する見直しⅠ-

相続の基礎知識㊴-遺言制度に関する見直しⅡ-

相続の基礎知識㊵-遺言制度に関する見直しⅢ-

相続の基礎知識㊶-遺言制度に関する見直しⅣ-

相続の基礎知識㊷-遺留分制度に関する見直しⅠ-

相続の基礎知識㊸-遺留分制度に関する見直しⅡ-

相続の基礎知識㊹-遺留分制度に関する見直しⅢ-

相続の基礎知識㊻-相続人以外の者の貢献を考慮するための方策-

ページトップへ戻ります