新・相続の基礎知識⑬―遺言執行者の必要性とその役割及び 選任方法・遺産分割方法の指定―

―目次―

第1 遺言執行者 

第2 なぜ遺言執行者が必要となるのか

第3 遺言執行者の役割

第4 遺言執行者の選任方法

第5 遺産分割方法の指定とは

第6 遺言の内容と異なる遺産分割がなされる可能性

第7 相続人間での争いを回避する手段としての遺産分割方法の指定

▎▎第1 遺言執行者

遺言にあたっては、遺言執行者を1人又は複数人指定することができます(民法1006①)。法律上、遺言にあたって遺言執行者を指定することは必須とはされていませんが、遺言に記載された内容を実現し、相続人間の紛争を予防するために、遺言執行者を指定することは有用です。

本稿では、遺言執行者の必要性とその役割及び遺言執行者の選任方法・遺産分割方法についてご説明いたします。

▎▎第2 なぜ遺言執行者が必要となるのか

遺言がなされたとしても、それだけでは故人である被相続人の意思は実現されません。その意思が実現されるためには具体的な遺言執行手続が必要となりますが、遺言執行者が選任されていた場合、遺言執行者において具体的な遺言執行手続を円滑に進めることができます

例えば、遺言において、特定の財産を相続人の一人に相続させる遺言(特定財産承継遺言、民法1014①)がなされていたとすると、これを管理し、当該相続人に引き渡すことが必要となります。この点について、遺言執行者は対抗要件具備行為(第三者に相続人の権利を主張するために必要となる登記、登録等の手続)を行う権限を有しています(民法1014②、899の2①)。

また、相続人以外の第三者へ不動産を譲るという遺贈がなされていれば、これを実現するための引渡しや登記という手続が必要になります。この点について、民法1012条2項は、遺言執行者が選任されている場合、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができると定めています。

他にも、遺言による相続人の廃除がなされている場合には、遺言執行者が家庭裁判所にその請求を行い、家庭裁判所による審判の確定後に戸籍上の届出をすることとなります。

具体的な遺言の執行手続の中には、遺言執行者がおらずとも、相続人らの手で行う事ができるものもあります。しかし、相続が発生してしまうと、相続人間の利害が対立することも多く、感情的な対立となってしまうこともあるため、相続人全員の協力により遺言の内容を実現することができない場合も多々存在します。

したがって、第三者である遺言執行者を選任しておくことは、遺言執行の手続を円滑に進行し、相続人間の争いを防止することにつながるといえるでしょう。

▎▎第3 遺言執行者の役割

遺言執行者は、就任すると、まず遅滞なく遺言の内容を相続人に通知し(民法1007②)、故人の相続財産を調査し、財産の目録を作成して相続人に交付します(民法1011①)。

その上で、遺言執行者は、遺言の内容に従い、財産を相続人に分配し、また、相続手続が終わるまで、相続財産の管理を行います。そのため、遺言執行者は、遺言の内容を実現するため相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有すると定められています(民法1012①)。

▎▎第4 遺言執行者の選任方法

遺言執行者の選任方法は2つあります。

1つは、遺言において指定する方法です(民法1006①)。遺言により、遺言執行者が指定された場合、遺言において定められた者または相続人から、遺言において遺言執行者とされた者に対して、遺言執行者に就任するか否かを連絡することとなります(民法1006②)。そして、遺言執行者とされた者が承諾した場合、この者が遺言執行者となります。実際には、遺言書の作成の段階でこれにかかわった弁護士等の法律専門家が予め了解の上で遺言執行者として指定されることが多く、遺言執行者となることを承諾しない場合は少ないものと思われます。

もう1つの方法は、相続発生後に家庭裁判所に選任を請求する方法(民法1010)です。利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求した場合、家庭裁判所は、遺言の内容から遺言の執行を必要と判断すれば、遺言執行者選任の審判を行います。

このように、相続発生後に家庭裁判所に選任を請求することによっても遺言執行者を選任することができますが、この場合、選任までに一定の時間を要することになりますし、相続人及び被相続人と全く面識がなく、遺言の作成にも関与していない遺言執行者が職務を行うこととなってしまいます。

これに対して、遺言書の作成段階から弁護士等がかかわり、当該弁護士等が遺言執行者になれば、相続人における事情や人的関係も踏まえた上で、遺言執行者に就任し、職務を行うことができるため、遺言執行手続きはより迅速かつ円滑に行われることになります。

したがって、できるだけ、遺言の作成段階において弁護士等の関与を得て、当該法律専門家を遺言執行者と指定する遺言を行うことが得策です

▎▎第5 遺産分割方法の指定とは

相続人間での争いを避けるためには、遺言を作成することがおすすめです

では、遺言の内容として何を定めるべきなのでしょうか。

本稿では,遺言の内容として定めておくべきと思われます遺産分割方法の指定についてご説明いたします。

遺産分割方法の指定(民法908前段)とは、各相続人が相続する財産を具体的に特定して遺言を行うことをいいます。

相続財産に関し遺言が残されていない場合、誰がどの財産を相続するのかは、基本的には相続人間の協議(民法907①)によって決めることになります。そのため、被相続人が生前に考えていた遺産分割の方法と、相続人間で協議の結果行われた遺産分割の結果とが乖離してしまうことは少なくありません。ここで、遺言において遺産分割方法の指定をしておけば、遺産分割において被相続人の考えが反映されることが期待できます。

たとえば、被相続人である父の相続財産として8000万円の価値のある土地建物と5000万円の現金があり、相続人は被相続人の長男と次男の二人であったと仮定します。ここで、被相続人である父は、長男に土地建物を、次男に現金を相続させたいと考えていたとします。このとき、もし遺言によって遺産分割方法について指定していなかった場合、相続人である長男と次男との間で遺産分割協議が行われることになりますが、遺産分割協議で次男が法定相続分にこだわった場合には、土地建物を売却して、長男と次男で6500万円ずつの現金を分割するということに決まってしまいかねません。

一方で、遺言において、長男に土地建物を、次男に現金を相続させる旨の遺産分割方法の指定をしておけば、通常、遺言の内容に沿った遺産分割が行われ、被相続人である父の思いが実際の相続において反映されることになります。

▎▎第6 遺言の内容と異なる遺産分割がなされる可能性

もっとも、遺言が行われている場合であっても、相続人全員が遺言の内容とは異なる遺産分割の方法に同意した場合には、遺言の内容とは異なる遺産分割が行われることになります。したがいまして、遺言を行ったからといって、必ず遺言どおりの遺産分割が行われるわけではありません。

しかしながら、故人の意思が尊重されるのが通常ですし、相続人全員の同意がなければ、遺言の内容とは異なる遺産分割を行うことができませんので、ほとんどの場合、遺言どおりの内容の遺産分割が行われることになります。

▎▎第7 相続人間での争いを回避する手段としての遺産分割方法の指定

第5で述べたとおり、遺産分割方法の指定をしておくことは、被相続人の思いを実際の相続に反映させる意味で重要です。他方で、遺産分割方法の指定は、相続人間の争いを回避するためにも有用です。相続財産に関し遺言が残されていない場合、誰がどの財産を相続するのかは、基本的には相続人間の遺産分割協議によって決めることになります。ところが、誰がどの財産を相続するのかについて相続人間で対立が生じてしまい、一向に話合いがまとまらないことが少なくありません。そうなると、遺産分割を行うために調停を行わなければならなくなります。さらに、調停でも遺産分割について合意できなかった場合には、家庭裁判所に遺産分割の審判を求めることになります(民法907②)。遺産分割の協議・調停・審判の間に、相続人同士の対立がより深まることが想定されます。これに対し、遺言において遺産分割方法の指定を行っておけば、遺産分割協議を経ることなく、相続財産の分割が行われます。その結果、相続人間の争いを回避することができることになるのです。

以上より、被相続人の思いを実現する意味でも、相続人間の争いを回避する意味でも、遺言において遺産分割の分割方法の指定を行うべきです。

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