「非上場会社のための株主管理・株主対策Q&A」株券④
|
【Q1】株券とはどのようなものですか。 【Q2】株券には、どのような事項を記載する必要がありますか。 【Q3】株券発行会社と株券不発行会社では、株式の取扱いにどのような違いがありますか。 ➡【Q4】株券発行会社では、株券の発行・紛失やM&A・事業承継に際して、どのような点に注意すべきですか。 【Q5】株券発行会社は、株券不発行会社へ移行した方がよいのでしょうか。 |
【Q4】株券発行会社では、株券の発行・紛失やM&A・事業承継に際して、どのような点に注意すべきですか。
【A】 株券発行会社では、株券の発行や株式譲渡に関して株券不発行会社とは異なる規律が適用されます。特に、①株券発行義務、②株券を紛失した場合の株券喪失登録、③M&A・事業承継における過去の株券発行状況の確認については、慎重な対応が必要です。
(解説)
1 株券発行義務の遵守
(1)規律
株券発行会社は、原則として、株式を発行した日以後遅滞なく株券を発行しなければなりません(会社法215条1項)。
もっとも、非公開会社である株券発行会社については、株主から株券の発行を請求されない限り、株券を発行しなくてもよいとされています(会社法215条4項)。また、株主が、株券発行会社に対して、株券を所持しない旨を申し出た場合には、会社は株券を発行することができません(会社法217条)。この申出をした株主も、後に株券の発行を請求することができます(会社法217条6項)。
なお、会社と株主との間で株券を発行しない旨を合意していたとしても、株式譲渡自由の原則(会社法127条)に反するため、その合意は無効と解されています。したがって、株券発行会社の株主は、原則としていつでも株券の発行を請求することができます。
(2)問題点
非公開会社であっても、株主から株券発行請求を受けた場合には、会社は株券を発行する義務を負います。これを正当な理由なく遅滞すると、株券が交付されていなくても株式譲渡の効力を否定できないと判断される可能性があります。
また、株券発行会社が株主から株券発行請求を受けたにもかかわらず株券の発行を放置した結果、株主その他の関係者に損害が生じた場合には、会社が損害賠償責任を負う可能性もあります。
(3)予防策・解決策
株券発行会社は、株主名簿上の株主から株券発行請求を受けた場合、特段の事情がない限り、速やかに株券を発行する必要があります。株券発行義務そのものをなくすためには、株券不発行会社へ移行する手続をとる必要があります。
なお、株券不発行会社への移行手続については、次回〔株券⑤〕にて取り扱います。
2 株券を喪失した場合の対応
(1)規律
ア 株券喪失登録の意義
株券発行会社では、株式譲渡に株券の交付が必要となるため(会社法128条1項)、株券を紛失すると、有効な株式譲渡をすることが困難になります。また、株券には善意取得制度があるため(会社法131条2項)、紛失した株券が第三者に取得されるリスクもあります。
そこで、会社法は、株券が善意取得されることを防止するため、紛失した株券を無効にし、新たな株券を発行するための株券喪失登録制度を設けています(会社法221条ないし会社法233条)。
株券を失った者は、会社に株券喪失登録を請求することにより、登録日の翌日から起算して1年を経過した日に、原則として当該株券を無効とすることができます(会社法223条、会社法228条1項)。
イ 株券喪失登録の手続
請求者が株主名簿上の名義人である場合は、氏名または名称、住所、株券番号を明らかにした上で、盗難届証明書や罹災証明書など、株券を喪失した事実を証する資料を会社に提出します(会社法223条、会社法施行規則47条3項1号)。
請求者が名義人でない場合には、これらに加え、株券を所持していたことを示す資料も必要となります(会社法223条、会社法施行規則47条3項2号)。
会社は、株券喪失登録原簿を作成し、株券番号、株券喪失者の氏名または名称、株主名簿上の名義人の氏名または名称及び住所、株券喪失登録日を記載または記録しなければなりません(会社法221条)。
また、請求者と株主名簿上の名義人が異なる場合には、会社は名義人に対して、株券喪失登録を行った旨等を通知する必要があります(会社法224条1項)。
株券喪失登録が抹消されず、また会社が株券発行会社でなくなることによって株券が無効となることもない場合には、登録日の翌日から起算して1年を経過した日に株券は無効となり、会社は株券喪失登録者に新たな株券を発行しなければなりません(会社法228条)。
ウ 株券喪失登録の効力
株券喪失登録がされた後は、登録が抹消されるか、登録日の翌日から起算して1年を経過するまで、会社は原則として当該株式について株主名簿の名義書換えをすることができません(会社法230条1項、会社法976条17号)。
また、登録抹消前に株券喪失登録がされた株券を再発行することもできません(会社法230条2項)。さらに、登録請求者が株主名簿上の名義人でない場合には、登録抹消までの間、名義人である株主の議決権行使にも制限が生じます(会社法230条3項)。
(2)株券喪失登録制度の問題点
株券喪失登録をしても、それだけで株券に関する実質的な権利関係が確定するわけではありません。そのため、株券が無効となる前に第三者が善意取得(会社法131条2項)して株券が転々流通することで、法律関係が錯綜する可能性があります。
また、株券を無効にするまでには少なくとも1年以上を要するため、M&Aや事業承継を予定している場合には、手続期間も考慮する必要があります。
(3)予防策・解決策
非公開会社である株券発行会社は株主から請求があるまで株券を発行しないこと(会社法215条4項)、株主側においては株券不所持の申出をすること(会社法217条1項)により、株券の紛失を予防できます。
また、株券を発行する旨の定款を廃止して株券不発行会社へ移行すれば、既発行の株券は定款効力発生日に無効となります(会社法218条2項)。そのため、喪失した株券を早期に無効化する必要がある場合には、株券不発行会社への移行を検討する余地があります。
なお、株券不発行会社への移行手続については、次回〔株券⑤〕にて取り扱います。
3 M&A・事業承継にあたっての留意事項
株券発行会社では、株式譲渡の効力発生に株券の交付が必要です(会社法128条)。したがって、株式譲渡によってM&Aや事業承継を行う場合には、まず対象会社が現在株券発行会社であるかを確認する必要があります。
さらに、現在は株券不発行会社であっても、過去に株券発行会社であった時期がないかを確認することが重要です。過去に株券発行会社であった時に株券の交付なしで株式譲渡が行われていた場合、その株式譲渡の効力は発生しておらず現在の名義人が真の株主でない可能性があるためです。
(1)株券発行会社か否かの確認方法
現在の状況を確認するには、登記事項証明書を確認する方法が最も簡便かつ確実です。
また、株券発行会社では、株主名簿に株券番号が記載され(会社法121条4号)、定款には株券を発行する旨の定めが置かれます(会社法214条)。そのため、株主名簿や定款も確認資料となります。ただし、中小企業では株主名簿が十分に整備されていないことがあり、また、会社法施行前から存在する会社では、定款に株券を発行する旨の記載がなかったとしても、定款変更をしていない限り、現在も株券発行会社である可能性があります。そのため、定款や株主名簿だけで判断するのは危険です。
過去の状況については、履歴事項証明書、閉鎖事項証明書、株券発行に関する定款規定を削除した際の株主総会議事録、原始定款から現行定款までの変遷などを確認できます。
(2)株券を交付せずに株式譲渡が行われていた場合の対処法
株券発行会社であった時期に株券の交付なしで株式譲渡が行われていた場合、株式譲渡の効力について慎重な検討が必要となります。
ア 会社法施行前の判例理論による対処法
最判昭和47年11月8日民集26巻9号1489頁は、会社が株券の発行を不当に遅滞し、信義則上、株式譲渡の効力を否定することが相当でない場合には、会社は株券発行前を理由として譲渡の効力を否定できないとしています。
もっとも、会社法上、非公開会社の株券発行会社は株主から請求されるまで株券を発行しなくてもよいとされ(会社法215条4項)、現在の非公開会社においてこの判例理論が適用される場面は限定的であると考えられます。したがって、判例理論を安易に適用することはできません。
イ その余の対処法
信義則上、会社が譲渡の効力を否定できない特別な事情がない場合、株券発行前の譲渡は当事者間では有効であっても、会社との関係では効力を生じないとされます(会社法128条2項)。
もっとも、株式の譲受人が譲渡人の会社に対する株券発行請求権を代位行使し、会社に対して株券の交付を直接譲受人に対してすることを求めることができます(最判令和6年4月19日民集78巻2号267頁)。このような対処をすることによって、譲渡人本人へ株券交付がなかったことを理由に、会社との関係で譲渡の効力を否定することはできなくなります。
また、問題となる譲渡から10年以上が経過している場合には、名義人が譲渡人に対して株主権の取得時効(民法162条)を援用する方法も考えられます。
以上のような対応策を講じたにも関わらず、株主権の帰属に疑義が残る場合には、株式譲渡を前提とするM&Aを見直し、会社分割や合併など、株式の直接移転を伴わないスキームへの変更を検討することも必要となります。
なお、変更後のスキームが組織再編行為であり、株主でない者が組織再編行為にかかる株主総会で議決権を行使していた場合には、組織再編行為の無効事由となる可能性があります。ただし、無効を主張するには無効の訴えを提起する必要があり、提訴期間も効力発生日から6か月と定められています(会社法828条)。そのため、株式譲渡に比べ、法的関係を早期に確定させやすい場合があります。
加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、関西を中心に会社法、会社内部紛争、事業承継、株主対策に関するご相談・ご依頼をお受けしております。
