「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」種類株式3
【目次】 1 種類株式とは 2 株主の同意に基づく無議決権株式の利用 3 全部取得条項付種類株式を利用した権利内容が異なる株式への変更 ➡4 拒否権付種類株式や役員選任権付種類株式の利用 5 取得条項付種類株式の利用 |
4 拒否権付種類株式や役員選任権付種類株式の利用
Ⅰ 拒否権付種類株式、役員選任権付種類株式の内容や利用方法
(1)拒否権付種類株式(黄金株)とは
会社法は、株主総会・取締役会等の決議事項のうち、当該決議のほか、当該種類株式の種類株主総会の決議があることを必要とする株式を発行することを認めており(会社法108条1項8号)、これを拒否権付種類株式と(黄金株とも)いいます。
代表取締役の選定や解職、取締役の選任や解任、株式の発行、重要財産の譲受け、合併等の事項を当該種類株主総会の決議の対象にできます。
そのため、現経営者はあらかじめこの拒否権付種類株式を発行しておき、後継者への株式譲渡後もこの拒否権付種類株式を所有し続けることで、経営関与を維持することができます。
(2)役員選任権付種類株式とは
会社法は、全株式譲渡制限会社において、その種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議だけで、取締役、監査役を選任できる株式を認めており(会社法108条1項9号)、これを役員選任権付種類株式といいます。
経営者は、これを保有し、自らや自己の意思に従う者を取締役として取締役会の過半数を占める数まで、選任できるようにしておけば、取締役会決議を通じて、自己の意思を経営に及ぼすことができます。
Ⅱ 拒否権付種類株式や役員選任権付種類株式を導入するための手続
拒否権付種類株式や役員選任権付種類株式を導入する場合、株主総会の特別決議により定款変更を行います。
まず、拒否権付種類株式を導入する場合、定款変更により、①発行可能な拒否権付種類株式の総数、②当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項、及び③当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときはその条件を定めます(会社法108条2項8号)。
一方、役員選任権付種類株式を導入する場合は、定款変更により、①発行可能な役員選解任付種類株式の総数、②当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役または監査役を選任すること及び選任する取締役または監査役の数、③②により選任する取締役または監査役の全部または一部を他の種類株主と共同して選任するときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数、④②または③に掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後の②または③に掲げる事項、及び④選任対象となる役員に社外取締役又は社外監査役である場合については、それぞれについての上記②ないし③に相当する事項を定めます(会社法108条2項9号、会社法施行規則19条)。
Ⅲ 注意点
(1)株式移転によるリスク
拒否権付種類株式や役員選任権付種類株式は、譲渡や相続等の承継によって株式が移転しても、その権利内容は維持されます。その結果、意図しない者これら強力な権限がある種類株式を取得することによって、会社の経営に強い影響力を持ち、円滑の事業承継の妨げとなるおそれがあります。
(2)経営者株主の判断能力低下によるリスク
拒否権付種類株式や役員選任権付種類株式の株主が、認知症等により判断能力が低下し、議決権の行使が不可能となった場合、当該種類株主総会における決議を要するとされた重要事項の決定や取締役の選任が滞るおそれもあります。
このように、拒否権付種類株式や役員選任権付種類株式についてはリスクがあるため、その利用には慎重な検討が必要です。次回で解説する取得条項を付することも考えられます。
<続く>
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