「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」種類株式4
【目次】 1 種類株式とは 2 株主の同意に基づく無議決権株式の利用 3 全部取得条項付種類株式を利用した権利内容が異なる株式への変更 4 拒否権付種類株式や役員選任権付種類株式の利用 ➡5 取得条項付種類株式の利用 |
5 取得条項付種類株式の利用
Ⅰ 取得条項付種類株式とは
会社法は、会社が一定の事由が生じたことを条件にこれを取得することができる株式を設けることを認めており(会社法108条1項6号)、これを取得条項付種類株式といいます。
一定の事由とは、会社の取締役または使用人でなくなった、一定の日の到来、株式の上場の決定、取締役会決議があったとき等が考えられす。
取得条項付種類株式においても会社が株式を取得する場合の対価は、金銭のほか他の種類の株式等を交付することも可能です。
Ⅱ 取得条項付種類株式の利用方法
無議決権株式の株主も、会計帳簿の閲覧謄写請求権(会社法433条1項)や取締役の行為の差止請求権(会社法360条)を行使することや、株主代表訴訟(会社法847条)を提起できるため、これらの権利行使により、経営への影響や対応コストが生じることがあります。
また、無議決権株式といっても、議決権行使の権限が完全に排除されるわけではなく、当該株式を有する株主に損害を与えるおそれがある一定の行為をする場合には、当該株主で構成される種類株主総会の決議を得る必要がある(会社法322条1項)ため、経営者株主と対立する株主が無議決権株式を保有すると、経営が制約されるリスクもあります。
以上のようなリスクについては、無議決権株式が、譲渡制限株式であることにより軽減されてはいますが、定款により相続人等に対する株式売渡請求の制度(会社法174条から177条)が設けられていなければ、経営者株主の意思により、相続等の一般承継による株式移転を防げません。
そこで、無議決権株式の株主が死亡した場合に会社が株式を取得できるよう取得条項付種類株式とすることで、相続等によって、経営者株主にとって好ましくない者が株主となるリスクを回避することができます。
Ⅲ 取得条項付種類株式導入の手続
既発行の株式を取得条項付種類株式に変更する場合、株主総会の特別決議による定款変更が必要です(会社法466条、309条2項11号)。具体的には、①一定の事由が生じた日に会社がその株式を取得する旨及びその事由(会社が別に定める日(会社法168条1項)が到来することを「一定の事由」とするときはその旨)、②①の日にその株式の一部を取得することとするときはその旨及び取得する株式の一部の決定方法、③会社が①の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対し交付する対価の内容・数額等またはその算定方法を定めます(会社法108条2項6号、107条2項3号)。
さらに、変更対象となる株式等を有している株主全員の同意も要求されます(会社法111条1項)。
Ⅳ 相続人等に対する株式売渡請求の制度との違い
相続等の一般承継による譲渡制限株式の移転は、相続人等に対する株式売渡請求の制度(会社法174条から177条)を設けることによっても防止できますが、この制度は全ての株式がその対象となるため、経営者株主が亡くなった場合、その所有していた株式も対象となります。
株式売渡請求制度は、定款変更や会社による売渡しの決定が株主総会の特別決議により導入できるのに対し(会社法175条1項、466条、309条2項3号11号)、既発行の株式を取得条項付種類株式に変更するためには、そのための定款変更について対象株式を保有する株主全員の同意が必要です。
もっとも、既発行の株式を全部取得条項付種類株式に変更し、その取得の対価を取得条項付株式とすることも可能と解されています。この方法をとれば、株主全員の同意がなくとも株主総会及び種類株主総会の特別決議があれば、取得条項付種類株式への変更が実現できるため、導入の難易度は株式売渡請求制度と同程度になります。
Ⅴ 注意点
取得条項付種類株式は、取得事由が生じたとしても、その日における対価となる財産の帳簿価額の総額が、会社の分配可能額を超えていいる場合、株式取得ができない(会社法170条5項、461条1項4号)ため、会社は分配可能額が取得対価を下回らないよう財産を確保しておく必要があります。
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