「非上場会社のための株主管理・株主対策Q&A」競業取引・利益相反取引・利益供与①

➡【Q1】取締役が競業取引を行う場合、少数株主との紛争や責任追及を避けるために、どのような手続と注意を要しますか。

【Q2】取締役が利益相反取引を行う場合、少数株主との紛争や責任追及を避けるために、どのような手続と注意を要しますか。

【Q3】株主への利益供与とは何を指し、少数株主との対立がある会社ではどのようなリスクに注意すべきですか。


【Q1】取締役が競業取引を行う際、少数株主との紛争や責任追及を避けるために、どのような手続と注意を要しますか。


【A】
競業取引は、会社法356条1項1号等に基づく承認手続を欠くと、取締役の損害賠償責任や株主代表訴訟(会社法423条1項、847条1項)の対象となります。少数株主との対立時には重要な攻撃材料となるため、適切な開示・承認・議事録作成を徹底する必要があります。

(解説)

1 競業取引における少数株主対策

取締役が会社と競合する取引を行う場合、取締役会設置会社では取締役会、非設置会社では株主総会の承認が必要です(会社法356条1項1号、365条1項)。また、取締役会設置会社では、取引実施後に重要事項を取締役会へ報告しなければなりません(会社法365条2項)。

競業取引は、取締役が自己または第三者の利益を優先する危険があるため、法律上厳格に規律されています。特に、経営陣と株主が対立した場面では、承認手続違反が責任追及の根拠として問題化しやすくなります。

競業取引規制違反がある場合、取締役は損害賠償責任を負い(会社法423条1項)、株主代表訴訟(会社法847条1項)の対象となるほか、解任事由としても主張され得ます。したがって、少数株主との紛争リスクを踏まえ、法定手続を形式的にも実質的にも適切に履践しておく必要があります。


2 競業取引規制の対象となる取引

(1)会社の事業の部類に属する取引

会社法356条1項1号は、「取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき」を規制対象としています。

ここでいう「会社の事業の部類に属する取引」とは、定款記載の目的に限られず、会社が現実に行っている事業と、商品・サービスの内容や市場が競合する取引を指します。

例えば、製造業における原材料の仕入れ等の付随取引は対象となりますが、単なる借入れや従業員採用などの補助的行為は通常含まれません。さらに、同種事業であっても市場が競合しない場合には対象外とされる一方、進出計画のある地域等は競合市場に含まれると解されています(山崎製パン事件・東京地判昭和56年3月26日)。

(2)自己又は第三者のため

「自己又は第三者のため」とは、形式上の名義ではなく、誰の利益計算で取引が行われるかを基準に判断されます。

裁判例では、競合会社の代表者でなくとも、株式保有や人的支配を通じて実質的に経営を支配していた場合、競業取引該当性を認めたものがあります(東京地判昭和56年3月26日、大阪高判平成2年7月18日)。

そのため、名義上は別会社であっても、実質的支配関係が認められる場合には競業取引規制が及ぶ可能性があります。


3 承認手続き

(1)重要事実の開示

承認を得るためには、取引先、取引内容、価格、期間、利益見込みなど、承認の可否を判断するために必要な情報を開示する必要があります。

重要事項について虚偽説明があった場合には、承認自体が無効と評価される余地があります。

(2)承認決議

取締役会設置会社では、競業取引について取締役会決議が必要となり、特別利害関係取締役は議決に参加できません(会社法369条2項)。

非設置会社では株主総会普通決議を要しますが、利害関係取締役の議決権行使により著しく不当な決議がなされた場合には、取消事由となる可能性があります(会社法831条1項3号)。

また、株主から質問があった場合には、取締役は説明義務を負います(会社法314条)。

(3)取締役会議事録・株主総会議事録

承認の存在を後日立証できるよう、議事録を適切に作成・保存しておくことが重要です。特に株主との対立時には、重要な防御資料となります。

(4)取締役会設置会社における取引後の報告

取締役会設置会社では、競業取引を行った取締役は、実施後遅滞なく重要事項を取締役会へ報告しなければなりません(会社法365条2項)。

(5)代表取締役への就任

競合会社の代表取締役に就任すること自体は直ちに違法ではありませんが、実際に競業取引を行うには承認が必要です。

そのため、実務上は代表就任時に包括承認を取得することが多く、その際には競合会社との関係性や事業内容、取引規模等を開示する必要があります。

なお、100%子会社間など完全支配関係がある場合には、競業取引規制が及ばないと考えられています。

また、包括承認後に事情変更があれば再承認が必要であり、取引後報告も継続的に行うことが望ましいとされています。

(6)事後承認の可否

事前承認を経ていない競業取引も、取引自体は当然には無効になりません。

もっとも、事後承認によって法令違反状態が完全に解消されるかについては否定的見解が有力です。ただ、責任追及場面では一定の事情として考慮され得るため、未承認であった場合でも放置せず承認手続を行うことが実務上望まれます。


4 取締役の責任

承認を欠く競業取引を行った取締役は、任務懈怠責任として損害賠償義務を負います(会社法423条1項)。

また、会社法423条2項により、取締役または第三者が得た利益額が会社損害額と推定されるため、責任追及を受ける側の負担は重くなります。

さらに、無承認の競業取引は、取締役解任の正当事由(会社法339条2項)や、解任請求訴訟(会社法854条)の根拠ともなり得ます。

一方承認決議を経ていたとしても、会社に不利益な取引であれば、別途、善管注意義務違反が問題となる可能性があります。


加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、関西を中心に会社法、会社内部紛争、事業承継、株主対策に関するご相談・ご依頼をお受けしております。

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