「非上場会社のための株主管理・株主対策Q&A」競業取引・利益相反取引・利益供与②

Q1 取締役が競業取引を行う場合、少数株主との紛争や責任追及を避けるために、どのような手続と注意を要しますか。

Q2 取締役が利益相反取引を行う場合、少数株主との紛争や責任追及を避けるために、どのような手続と注意を要しますか。

Q3 株主への利益供与とは何を指し、少数株主との対立がある会社ではどのようなリスクに注意すべきですか。

【Q2】利益相反取引を行う場合、少数株主との紛争や責任追及を避けるために、取締役はどのような手続と注意を要しますか。

【A】利益相反取引は会社法356条1項2号・3号等により規制されており、適切な開示と承認を欠くと、損害賠償責任(会社法423条1項)、株主代表訴訟(会社法847条1項)、さらには特別背任罪(会社法960条1項)の問題に発展する可能性があります。

(解説)

1 利益相反取引における少数株主対策

利益相反取引とは、取締役が自己または第三者の利益を優先し、会社に不利益を及ぼすおそれのある取引をいいます。このため、取締役会設置会社では取締役会、取締役会非設置会社では株主総会の承認を受けることが必要です(会社法356条1項2号・3号、365条1項)。

また、取締役会設置会社では、取引実施後に重要事項を取締役会へ報告しなければなりません(会社法365条2項)。

少数株主との対立が生じた場合、利益相反取引の手続違反は責任追及の有力な根拠となります。競業取引違反と同様に、損害賠償請求(会社法423条1項)や株主代表訴訟(会社法847条1項)の対象となるほか、場合によっては特別背任罪(会社法960条1項)として刑事事件に発展する可能性もあります。

そのため、利益相反取引は必要最小限にとどめ、実施する場合には法定手続を厳格に履践することが重要です。


2 利益相反取引規制の対象となる取引

(1)直接取引

直接取引とは、取締役自身が会社と契約する場合や、取締役が他人や他社を代表して会社と取引する場合を指します(会社法356条1項2号)。

例えば、会社の取締役が別会社の代表者として自社との契約を締結するケースが典型例です。

もっとも、会社に不利益が生じない取引まで規制対象となるわけではありません。無償の利益供与、無利息貸付け、通常の約款取引、一般顧客と同条件で行われる取引などについては、利益相反性が認められないと考えられています。

また、第三者割当増資等のように別の法定承認手続が予定されている行為については、重ねて利益相反取引として承認を得る必要はないとする見解が有力です。

(2)間接取引

間接取引とは、会社が取締役の債務を保証する場合や、第三者との取引であっても会社と取締役の利益が対立する構造を有する取引をいいます(会社法356条1項3号)。

典型例としては、債務保証、債務引受け、物上保証、取締役を受取人とする保険契約などが挙げられます。

また、取締役が代表者を務める会社や実質的に支配する会社の債務を保証する場合も、利益相反取引に該当すると解されています(最判昭和45年4月23日)。

間接取引の範囲は必ずしも明確ではないため、利益相反性が疑われる場合には、事前に承認を取得する方向で検討することが望ましいでしょう。

(3)グループ会社間の取引

完全親子会社関係など、100%支配関係にある会社間の取引については、通常、利益相反取引には該当しないと解されています(最判昭和45年8月20日)。

100%子会社同士の取引についても同様の考え方が採られています。


3 承認手続き

(1)重要事実の開示

承認を求める際には、取引条件が公正かどうかを判断できる程度の情報を提供しなければなりません。

取引内容、価格、条件、また保証の場合の主債務者の資力など、意思決定に必要な事項を十分に説明する必要があります。

なお、虚偽の説明に基づいて取得した承認は、その効力が否定される可能性があります。

(2)承認決議

取締役会設置会社では取締役会決議が必要であり、特別利害関係取締役は議決に参加できません(会社法369条2項)。

取締役会非設置会社では株主総会普通決議によりますが、利害関係人の議決権行使によって著しく不当な決議が成立した場合には、取消事由となる可能性があります(会社法831条1項3号)。

また、株主から質問があった場合には、取締役は説明義務を負います(会社法314条)。

なお、利益相反取引については、競業取引と異なり、事後承認も有効と解されています。そのため、事前承認を欠いていた場合には、速やかに追認手続を行うべきです。

(3)取締役会議事録・株主総会議事録

承認の事実や開示内容を明確に残すため、議事録を適切に作成・保存しておくことが重要です。

後日、株主との紛争が生じた際には、有力な証拠資料となります。

(4)取締役会設置会社における取引後の報告

取締役会設置会社では、利益相反取引に関与した取締役は、取引後遅滞なく重要事項を取締役会へ報告しなければなりません(会社法365条2項)。

報告義務者には、会社を代表した取締役や直接取引の相手方となった取締役などが含まれます。


4 取締役の責任

承認を得ないまま利益相反取引を行った場合、取締役は任務懈怠責任を負います(会社法423条1項)。また、他の取締役についても監視義務違反が問題となる可能性があります。

さらに、利益相反取引により会社へ損害が生じた場合には、承認の有無にかかわらず、一定の取締役について任務懈怠が推定されます(会社法423条3項)。

加えて、自己のために直接取引を行った取締役は、無過失責任を負います(会社法428条1項)。

また、利益相反取引が会社に重大な損害を与えた場合には、特別背任罪(会社法960条1項)の成立が問題となることもあります。

そのほか、無承認の利益相反取引は、取締役解任の正当事由(会社法339条2項)や解任請求訴訟(会社法854条)の根拠ともなり得ます。

このように、利益相反取引は民事・会社法上のみならず刑事責任にも発展し得るため、必要性が高い場合を除いて慎重に判断し、実施する場合には適正な承認手続と記録化を徹底することが不可欠です。

「非上場会社のための株主管理・株主対策Q&A」競業取引・利益相反取引・利益供与①


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