相続の手引き㊹-生計の資本としての贈与

⑴ 総論

生計の資本としての贈与は特別受益となります。生計の資本としての贈与とは、広く受贈者の生活の基盤に資するような財産上の給付を指します。もっとも、生計の資本となりうる贈与であったとしても、被相続人の財産状態に照らして夫婦間の生活保持義務、親族感の扶養義務の範囲内のものであると評価できる場合は、特別受益には含まれません。生計の資本としての贈与に該当するかが問題となるものとして次のようなものが挙げられます。

⑵ 大学の入学金・学費

大学の入学金・学費について、形式的には贈与ではないものの、共同相続人間で差がある場合に特別受益該当性が問題となります。

現代社会においては大学進学率が50%を超えており、また大学等の費用は国公立大学、私立大学、その他専門学校で大きく異なりますので、高等教育であることのみをもって画一的に取り扱うのは相当ではありません。親としても、大学等の高等教育の費用にいて子に対する扶養の一内容として支出するものと認識しているのが通常であると考えられます。そのため、被相続人の資力、社会的地位等に照らして扶養の範囲内にとどまると評価できる場合には、特別受益には当たらないと解するのが相当であると考えられます。

⑶ 生命保険金

共同相続人の1人が受取人になっている生命保険金は相続財産を構成しません。しかしながら、被相続人が保険料を支払っていた場合には、共同相続人の1人が被相続人による保険料支払の結果として保険金を取得するのは、共同相続人間の均衡を失するともいえます。

この点、最高裁は、原則的に特別受益性を否定した上で、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほど著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、民法903条を類推適用して保険金は特別受益に準じて持戻しの対象になると判断しました。そして、特段の事情の有無は、保険金の額、遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきであるとしました(最決平成16年10月29日民集58巻7号1979頁)。

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